2019 Fiscal Year Research-status Report
子ども法における公私の法主体による支援の法関係構造
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18K01263
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
横田 光平 同志社大学, 司法研究科, 教授 (10323627)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 児童福祉法 / 社会的養護 / 養子縁組あっせん法 / 民法 / 親権 / 未成年後見 / 子ども法 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、これまで民法学の研究対象とされてきた養子法につき行政法、子ども法の観点から考察し、日本家族<社会と法>学会において「行政法からみた養子法-もしくは子どもの権利条約からみた養子法」と題する報告を行った。2016年児童福祉法改正と民間機関養子縁組あっせん法を素材とし、本研究課題のコンセプトである「子ども法における介入と支援の交錯」を機軸とした分析枠組みに基づき考察する報告であり、その内容は同学会の学会誌で公表される(脱稿済)。この研究は、総合的考察が求められる養子法について、民法学だけでは不十分な部分を補い、総合的考察を可能にする意義を有する。 続いて、児童虐待問題における児童福祉法と民法の関係を全体的に問い直す研究に着手した。研究は一通り終え、当初の予定どおり今年4月に研究成果を論文として脱稿予定である。当初解明を目指していた児童福祉法上の社会的養護と民法上の親権の関係に加え、研究の進展に伴い、前者と民法上の未成年後見の関係を問う必要があることが明らかになり、社会的養護、親権、未成年後見の相互関係を総合的な観点から明らかにした。未成年後見をも視野に入れることによって児童虐待に係る児童福祉法と民法の全体的な関係を初めて明らかにしたといえる点が本研究の意義である。 同研究と並行して児童福祉法上の社会的養護に関する基本規定である同法27条、33条につき、その解釈論全般を見直し、児童虐待関連法令逐条コンメンタール掲載予定の原稿に反映させた(共著、脱稿済)。児童虐待に関する重要法令についての最新の解釈論である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究実績報告書において「今後の研究の推進方策」として記した研究計画はすべて予定どおり実施できたが、昨年度記した研究計画自体が本研究課題全体との関係ではやや予定外の内容であったことから、本研究課題との関係では予定以上の研究の進展が望まれるところ、そこまでの研究の進展には至らなかった。 具体的には、当初養子法の研究は試行錯誤を繰り返して研究の進展が若干危ぶまれたが、学会報告に専攻する研究会において民法学者との間で積極的な議論を展開することができたことから、民法学とは異なる自らの独自の視点のありかを明らかにすることができた。学会報告の後、さらに自らの見解を精緻化し、学会誌掲載論文を脱稿した。 上記研究にやや時間がかかったことから、児童虐待に係る児童福祉法と民法の全体的な関係を問う次の研究は、早急に成果を出すことが求められ、集中して研究に取り組んだが、当初想定していた研究は予定どおりであったものの、未成年後見の位置づけという論点が全体的な考察の中で重要な位置を占めることに気づき、予想以上の研究成果が見込まれたことから、結局予定どおりの研究時間が必要となった。 以上のとおりであるから、研究の進捗状況という点では当初の予定通りであるが、研究成果という点では当初の予定を超える結果を出したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度においては、研究のまとめとして、「給付における子ども・親・国家」をテーマとして総合的研究を行い、論文を執筆する必要があるが、それに先行して、子ども・子育て支援と学校教育(普通教育)に焦点を当て、両者を対比しつつ給付の観点から子ども・親・国家の関係を論じる必要があることが明らかになった。この研究を先行させることによって、上記総合的研究がより説得力のあるものとなる。具体的には子ども・子育て支援法と教育機会確保法を考察の素材とすることを予定しており、本報告書を執筆している現時点においてすでに論文の構想はできている。 次いで、本研究課題である「給付における公私の法主体の関係を問う」という観点から、社会的養護としての里親養育について「行政活動であると同時に家庭でもある」という両義的性格に焦点を当てた研究を行う。この研究は、本来は本研究課題の次の研究課題の一部として想定していたものであるが、本研究課題のまとめ研究との関係でも重要な意味を持つことが明らかとなったことから、次の研究課題の研究準備を兼ねて、本研究課題の中で研究することとした。 以上の研究の後、本研究課題のまとめ研究として、「給付における子ども・親・国家」の関係を総合的に考察するため、①給付をめぐって子どもと親がともに給付を求める関係と②給付をめぐって親が給付を求めない関係に分けて考察を行う。①前者についての素材は福島子ども被曝裁判であり(この部分の考察のために上記学校教育の研究が必要である)、支援優位を定める2016年改正児童福祉法3条である。②後者についての素材は、給付を拒む親に対する親権制限の裁判例であり、住民基本台帳法に係る裁判例である。
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Causes of Carryover |
東京での児童福祉法研究会開催にあわせて実務家の方との打ち合わせを実施する予定であったが、打ち合わせを予定されていた方が児童福祉法研究会(非会員でも自由に参加できる)にたまたま参加されるなどして、研究会終了後に実質的に打ち合わせを行うことができたことが複数回あり、そのような事情から打ち合わせ謝礼を受け取られなかった。 また、弁護士の方との打ち合わせに関しては、打ち合わせを予定していた弁護士の方からたまたま打ち合わせの依頼があり、その依頼に応じる形での打ち合わせであったため、謝礼をお渡しすることができなかった。 今年度は、周知の事情により東京で児童福祉法研究会を実施できない可能性が高く、別途実務家の方との打ち合わせを設定する必要がある。打ち合わせのために通信環境を整備する必要があることから、予定外の支出が必要となることが予想され、これまで節約した使用額をここに投入したい。
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