2019 Fiscal Year Research-status Report
インターネット上での公権力による情報収集とプライバシー権-その立法的統制
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18K01270
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
實原 隆志 福岡大学, 法学部, 教授 (30389514)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 情報自己決定権 / 自己情報コントロール権 / プライバシー / ヴァーチャル覆面捜査 / SNS / 適正手続 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究においては、インターネット上で発信されている情報が多様であり、そのプライバシー性も様々であるとの認識の下で研究を進めた。また、情報を閲覧できる範囲も利用者全員である場合や登録会員の一部である場合など、様々である。以上の観点での類型化を経て、「公権力がどのような情報を収集する場合に、立法を待つべきと考えられるか」を明らかにすることを目的に検討を進めた。 その成果として、11月に行われた国際人権法学会での報告がある。そこでは、「サイバー補導」が既に行われている日本において、一定の者しか閲覧できない情報、例えばSNS上で発信されている、そうした情報を警察が閲覧することの問題を検討した。特に、「ヴァーチャル覆面」捜査官を用いた情報収集では、情報発信者の期待・予想を裏切って行われるという点で合憲性・合法性が問題となることを明らかにした。 加えて、12月に公表した単著においては、インターネット上で、閲覧できる者を限定せずに公開されている情報を警察が収集することの問題も扱った。ドイツ連邦憲法裁判所の判例も参照しながら検討を進め、こうした情報であれば、警察関係者の目に触れることを、情報発信者は予想できるはずであり、法律の明文の根拠は必ずしも必要ではないとの見解を示した。 こうした捜査に対する法律上の根拠の要否に関する研究は、もともとは2020年度に予定していたものであったが、憲法上の本格的な検討も含めて行うことができた。このことは国際人権法学会での報告や単著に加えて、九州公法判例研究会での報告、GPS捜査の憲法上の問題に関する論文や、単著・共著書においても同様であり、これらが憲法31条の問題として検討する余地があるとの見解も公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の段階では、同年度に予定していた研究自体は進められていたものの、その成果の公表までは至っていなかった。その成果の一部は2019年度に公表することができ、2019年度の研究でも、予定していた研究を進めることができ、その研究成果も公表することができた。その成果の公表は9月、11月、12月、と複数回にわたり行えたため、おおむね順調ではないかと思われる。 さらに2020年度に予定している、「立法の要否」という観点での研究も、一部において先行して開始することができており、先に挙げた研究業績の中でも、そこから導かれた結論を明らかにしている。それゆえ、研究成果の一部は未公表であるとはいえ、予定していた研究は順調に進んでおり、一部は翌年度に予定していた研究も前倒しして行えているため、研究の進捗状況として「おおむね順調」と言えると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018・2019年度の研究によって、公権力が情報収集を行う空間と、収集の対象となる情報の類型化を行い、情報収集を行うための立法の要否も、その一部について明らかにすることができた。2020年度は、本研究の最終年度に当たるため、例えば、同じ空間で発信されている情報であっても、それらの情報のプライバシー性は様々であることなどをふまえて、インターネット上での公権力による情報収集を重層化し、それぞれの場面ごとに、立法を待つことの要否を明らかにする。 本研究に先立って、この研究の展開可能性として、情報収集の「方法」や「時」に着目した類型化を挙げていた。同様に、立法の必要性だけでなく、「令状の要否」のような、法律の中身についての検討も挙げていたが、一部は既に検討に着手することができている。今後の研究においても、それらの検討を進展させる予定である。 これらの研究成果の公表についていえば、まず、国際人権法学会で報告した内容を論文として公表するための準備を進めている。また、その他、既に着手し、進めてきた研究の成果の公表も、研究会での報告や論文などの形で公表する予定である。
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Causes of Carryover |
国外旅費としての支出は、概ね、当初の見込み通りであった。その一方で、年度末に予定されていた研究会が中止になることが多く、国内出張が行えなくなることも少なくなかった。その結果、次年度使用額が生じることになったが、8割程度は執行した形となった。そのため、補助金の計画的な使用という点では、大きな問題はなかったと考えている。 2020年度においては、引き続き補助金の計画的な使用に努める。次年度使用額の発生により、当初の予定と比べて若干多い金額を支出できることを念頭に置き、2019年度の執行状況をふまえた形で使用する。2019年度の執行状況を見る限り、支出の費目とそれぞれの額は申請当初の予定通りとなる見込みである。
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