2020 Fiscal Year Research-status Report
Critical Analysis of Theoretical and Practical Validities of the Doctrine of Third-party Countermeasures
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18K01282
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
岩月 直樹 立教大学, 法学部, 教授 (50345112)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 経済制裁 / 経済的力の行使 / 一方的強制力 / 対抗措置 / 地域的安全保障機構 / 集団安全保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度おいては、地域的国際組織・機構による経済制裁の実施に関わる実行について文献資料に基づく調査を行い、その国連憲章及び一般国際法上の法的評価に関する理論的検討を行った。 地域的国際組織・機構による経済制裁については主に、国連憲章第53条が予定する、安全保障理事会による地域的取極・機関の「利用」が問題とされ、また軍事的措置との関係が論じられてきた。こうした検討においては、同条が「いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極めに基づいてまたは地域的機関によってとられてはならない」と定めていることとの関係で、経済制裁が「強制行動」に該当するかという問題に焦点が当てられてきた。この点については現在、経済的措置は個別国家も報復あるいは対抗措置として実施することが可能であることから、地域的取極めに基づく場合でも安全保障理事会の許可に服さないと考えられている。 このように一律に経済的措置については強制行動にあたらないとする理解は、対抗措置と集団的安全保障のための経済的措置という法的に区別されるべき問題を混同する点で問題があり、より精緻な検討が必要である。個別国家による対抗措置は平和的紛争処理手続の一部であるのに対し、 国連憲章における強制措置は集団的安全保障制度に基づく措置であり、そのために執られる非軍事的措置は、対抗措置とは異なる法制度に服する。このような点で、両者は法的・制度的に異なる評価を受けるべきものである。そうである以上、地域的機構が安全保障のためにとる集団的な経済的措置を集団的対抗措置として当然に捉えうるものではなく、各事案の状況に照らしていずれの法制度に則して理解されるべきかが論じられなければならない。そのような観点から、地域的国際組織・機構に関する実行は再点検されなければならない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスの感染拡大防止措置のために各国が実施した入国規制などのために、当初2020年度に予定していた海外調査については中止せざるを得ず、研究計画の大きな変更を余儀なくされた。そのため、予定していた調査の後に発展的課題として取り組む予定であった地域的国際組織・機関による経済制裁の調査を、先行して実施することとした。それによって重要な知見が得られたことから、計画の大幅な変更にかかわらず、「概ね順調に進展している」とした。 調査においては、地域的国際組織・機関による経済制裁に関する実行に関する先行研究の検討を進めた。主な資料は学説による事例研究に関する二次文献であるが、重要な事例については関連する地域的国際組織・機関の決議及び決議に到るまでの審議過程を示した資料の収集と調査を進めている。 こうした調査検討を通じて、従来の学説においては集団的安全保障のための経済的措置を無批判に集団的な対抗措置として捉える見解が少なくないことが明らかとなった。他方で、集団的な対抗措置(第三国による対抗措置)における研究においては、地域的国際組織・機関によって実施された経済的措置を、その実行例として評価することは必ずしも一般的ではなく、この点について学説による評価が分かれている点は興味深いところであり、今後の研究を通じてより検討を進める必要がある。対抗措置概念が「違法に対する違法」として非常に抽象的で、一面的な理解がされていることが、その一因になっているものと考えられるが、同じ経済的措置であってもそれが何を問題として、どのような目的のために行使されるかという法的文脈をふまえることによって、地域的国際組織・機関による措置が集団的対抗措置であるのか、それとも地域的な集団安全保障体制の下で執られる強制措置であるのかが区別されなければならない。このような観点から、実行について精緻な検討が求められる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は最終年度であり、本来であればこれまでの調査検討結果をふまえた取り纏めを行うべきところであるが、延期となった海外調査を可能であれば実施したいと考えている。その目的は、2020年度の調査で得られた知見を基に、地域的国際組織・機関による経済制裁の実施に到る過程においてそれが対抗措置として意図されていたのか(そのように推測される事情があるか)、それとも集団的安全保障のための措置として意図されていたのか(そのように推測される事情があるか)を検討するための情報を収集することにある。 もっとも、いまだ新型コロナウィルスの感染が収束する見込みがないことから、2021年度においても海外調査を行うことは難しいことが十分に推測される。そのために、2020年度に引き続き、地域的国際組織・機関による実行に関する一次資料であり審議過程などを、可能な限りで調査収集し、その検討をつづけることととしたい。 以上の調査と、集団的ではあるが個別国家の判断による一方的措置の行使に関する調査検討の成果とあわせて、「第三国による対抗措置」をめぐる国際法上の問題について研究成果を取り纏めたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大予防のために各国が実施している措置の結果、当初2020年度に予定していた海外調査を実施することができず、それに代わって文献資料の調査を実施した。これにより、当初に予定していた使用額とは異なる支出を行ったことから、次年度使用額が生じることとなった。 2021年度においては、可能であれば海外調査を実施したいと考えているが、それがなお難しい場合には引き続き文献資料等の取得にかかる費用として利用する予定でいる。
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