2018 Fiscal Year Research-status Report
Effectiveness of International Judicial Procedures in the Current Internatioanl Community: Coexistence and Conflicts of Plural International Judicial Procedures and the Compulsory Jurisdiction
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18K01283
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
河野 真理子 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90234096)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 国際司法裁判所 / 国連海洋法条約 / 勧告的意見 / 小田滋 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、当初の計画通り、国際裁判における紛争当事国の同意の意義についての研究を行った。 2000年以降、国際社会全体に関わる国際紛争について、特定の国が原告国となって、他の国家を訴える事案が国際司法裁判所や国連海洋法条約第15部の裁判に付託されるようになっている。そのような事案では、裁判所の管轄権についての紛争の当事国の事前の意思がどのような紛争を念頭に置いたものであるかが問題となりうる。一方的付託の事案で、原告側が裁判所の管轄権を根拠づけるために、紛争主題を操作する場合が多くみられるようになっており、被告国側から見れば、同意の意思表示の時点では十分に予測していなかった紛争が、国際裁判に付託されるようになっていると言ってよい。 さらに新たな現象として、例えば、国際社会の平和と安全の維持や拷問や集団殺害の防止及び処罰のような、国際社会全体の共通利益を守るためと考えられる国際法規範を含む条約の違反が論じられる事案の判決では、厳格な同意の存在を求めていた1990年代までとは若干異なる傾向がみられるようになっている。 これらの事案において、紛争の両当事国の同意が必要とされる国際裁判制度がどのように機能するのかを考察する研究を行った。 偶然の依頼ではあるものの、国際司法裁判所の在任中、国家の同意に基づく管轄権の行使のあり方に大きな関心を示し続けた、小田滋元国際司法裁判所裁判官の業績についての原稿の執筆を依頼され、その執筆は、現代国際社会における国際裁判のあり方について考察を深めるきっかけとなった。 さらに、2019年2月25日に出された国際司法裁判所のチャゴス諸島の分離の法的効果事件の勧告的意見は、二国間の紛争と国際社会全体の利益の関係を論じる重要な題材となるものであり、勧告的意見の言い渡し直後から、2019年度にこの意見における国家の同意の役割を考察する研究を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年間の研究計画のうち、1年目に当たる2018年度は、本研究の全体の基礎となる国際裁判における紛争当事国の同意の意義の研究を行うとともに、一つの紛争について重層的に国際裁判手続が利用された事案の研究を主に行う予定であった。前者の研究については、国際裁判の理論的な研究書及び論文を読むことに時間をかけた。また、小田滋元国際司法裁判所裁判官が意見を付した事案の中でも、管轄権についての紛争当事国(とりわけ被告国)の同意のあり方を論じた事件について、多数意見の判決、他の裁判官が同じ論点にどのような判断を示していたかを詳細に検討したことも、考察を深める良い機会となった。 また第二の課題である、複数の裁判手続が重層的に用いられた事案の研究については、主要な事例の詳細な検討に時間を費やすこととした。その成果の一部は、国連海洋法条約第15部を利用した裁判の事例の中で船舶に関する判断を行ったものを素材とした論文の形で公刊した。また、南シナ海の紛争に関する論文集の書評でも、3か国以上の国家が関与する紛争において、国際裁判がどのような役割を期待されるか、あるいはどのような限界を持つのかを考察することができたと考えている。 さらに、2019年2月25日の国際司法裁判所の勧告的意見は、モーリシャスと英国の間のチャゴス諸島に対する主権の問題が背景にある事案である。この事件では、二国間の紛争を国際裁判に付託することに英国が同意をしない状況で、モーリシャス等のアフリカ諸国の主導で、国連総会が勧告的意見を要請する決議を採択した。ICJの勧告的意見では、多数意見と少数意見がともに、英国の同意の問題を議論しており、本研究が念頭に置いていた国際裁判所における同意原則に関する重要な先例となっている。この勧告的意見の検討も2018年度内に開始することができた。 以上から、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の研究がおおむね順調に推移していることを受けて、2019年度はさらに研究を加速させていきたいと考えている。特に、今年度は、国際裁判所と国内裁判所の裁判手続きの関係について、できる限り多くの事案を検討して行きたい。 また、国際裁判所における国家の同意原則の意義については、引き続き学説の研究を続けていくこととしたい。とりわけ、チャゴス諸島の分離の法的効果事件の勧告的意見については今後様々な論考が出版されると考えており、これらを丁寧に読み進めていく予定である。
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Research Products
(6 results)