2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01284
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福永 有夏 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (10326126)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | WTO紛争処理 / 投資仲裁 / WTO改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度はWTO紛争処理、とりわけ上級委員会に係る問題を研究の中心とした。 WTO紛争処理の裁判的手続は第一審に相当するパネルと第二審に相当する上級委員会から構成される。常設の上訴機関である上級委員会によるWTO協定解釈は、事実上の先例に近い権威のある解釈としてしばしば後の紛争において参照され、WTO体制の安定性と予見可能性の確保に貢献してきた。しかし近年、米国が上級委員会によるWTO協定解釈はWTO加盟国の意図を踏まえていないなどと批判を強めるようになり、特に2019年には米国の上級委員会委員任命拒否により在籍委員が1名となり(定員は7名)、機能不全に陥った。こうした状況から、2019年度においてはWTO紛争処理、とりわけ上級委員会の改革に関する議論が国際的に活発に行われた。 私の2019年度の研究も、上記の背景を踏まえ、上級委員会の改革を主に取り扱った。特に注目したのが、上級委員会による解釈の先例としての性質の有無である。本研究の目的は他の国際裁判手続との比較を通じて「WTO紛争処理…における国際法の規則及び原則の位置づけを明らかにすること」にあるが、2019年度は国際裁判における先例(precedent)の位置づけや条約の解釈権限の所在について複数の口頭発表や論文発表を行った。このほかにも、WTO紛争処理改革に係る口頭発表を複数行った。 以上の他、2018年度から継続している国際経済紛争処理制度における検討のあり方、とりわけ、WTO紛争処理(パネルや上級委員会)や投資仲裁廷が国家の政策判断に対してどの程度踏み込んで審理を行えるか(逆に言えばどの程度配慮(deference)すべきなのか)という問題についても論文発表などを行った。また、日欧経済連携協定における持続可能な開発章をはじめ、経済協定と非経済分野の国際法との関係についての研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は特にWTO紛争処理について複数の研究成果を発表することができた。世界的にもWTO紛争処理改革についての議論に関心が高まったことは、研究を進めるうえでプラスとなった。すでに採択が決まっている国際共同研究加速基金(A)において、WTO紛争処理改革についての研究をさらに発展させることを期待している。 ただし、WTO紛争処理をめぐる今後の研究の進展については懸念もある。というのも、2020年春からのコロナ禍のため、2020年6月に予定されていたWTO閣僚会議が中止となるなど、WTO改革についての政治交渉の見通しが極めて不透明になっているためである。WTO改革の進展はWTO紛争処理についての研究に少なからず影響を与える恐れがある。 投資仲裁についても、一定の研究成果を発表することができた。投資仲裁については、改革についての議論が必ずしも進んでおらず、新たな論点は限られている。ただし、WTO紛争処理との比較で極めて興味深い点があり(WTO紛争処理において上級委員会批判が強まっている一方で、投資仲裁についてはむしろ上級委員会に類似する制度を新たに導入しようとの議論がある)、引き続き研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、WTO紛争処理については上級委員会の機能が事実上停止していること、また上級委員会改革の議論もコロナ禍のため見通しが不透明なことから、今後研究を進めるうえで困難が予想される。こうした状況も踏まえ、2020年度は、上級委員会改革に関する研究を進めつつも、この機にこれまでのWTO紛争の再検討を行いたい。本研究の申請時には、WTO紛争処理の事例を研究し、その成果の一部を社会に還元することを目的にしたいと述べたが、2020年度は特にWTO紛争においてこの目的に沿って研究を行いたい。 投資紛争処理については、2019年度に行った先例についての研究発表を論文として発表することを目指したい。 なお、2020年度に予定されていた国際学会がすでに複数キャンセルとなるなど、予定していた出張の実施が困難な状況である。また、大学図書館の利用にも支障が生じている。2020年度は本来研究の最終年度と位置付けていたが、コロナ禍の状況によっては延長せざるを得ない。
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Causes of Carryover |
論文(英文)の英文校正費に使用予定であったが、論文原稿が期日までに準備できなかった。当該論文は2020年度中に完成させ、公表予定である。
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