2019 Fiscal Year Research-status Report
外国軍隊による「支配」の現代的諸相が国際人道法に及ぼす影響に関する研究
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18K01287
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
新井 京 同志社大学, 法学部, 教授 (10319436)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 占領 / 全般的支配 / 紛争の国際化 / 欧州人権条約 / アル・スケイニ事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の前半は、前年度に引き続き、国家が非国家主体を通じて外国領域を支配する「プロクシ」を通じた占領の実行および議論を、国際人道法の全体的文脈の中で検討することに費やした。国際人道法の適用において、国家が外国において行動する非国家主体に一定程度の支配を及ぼしている場合、武力紛争の国際化が生じるとされる。かかる非国際的武力紛争の国際化の敷居と、プロクシを通じた占領との関係が議論になるのである。判例上は、介入国による非国家主体に対する全般的支配は、当該非国家主体による「占領」を介入国自体による「占領」と見なしうると考えられているようにみえる。しかし、そのようなプロクシを通じた占領を、領域国との関係で、また被占領地域住民との関係でみた場合に、介入国が直接占領を行っているのと同一視できないという議論もある。この立場は、プロクシを通じて介入国が占領を確立するためには、紛争を国際化する介入国による非国家主体の支配(全般的支配)を越えるより強い支配が必要だと考えている。ただし、翻ってみれば、この立場は、保護・責任のギャップを生んでしまう可能性がある。また、このような立場の対立を注視することで、より根源的には、通説的に定着したと言われる「全般的支配」の基準が武力紛争の国際化を正当化するに十分なのか、果たしてそのような「全般的支配」により非国際的武力紛争はどの程度、どの範囲で国際化するのか、そもそも非国際的武力紛争の国際化とはどのような帰結を伴うのか、といった問題が実は明確な整理無く議論されていることも明らかになった。 2019年度の後半は、欧州人権裁判所の判例を検討し、占領状態の確立と人権条約の適用に必要な「管轄」の行使との関係について検討した。これにより、占領に必要とされる実効的支配の本質、特に国家による一般的な権力行使(人権条約の遵守義務を伴う)との関係を明確にしようと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、過去のシリア軍が駐留しその政治に対する「支配」の残滓、また現在進行中のヒズボラに対するイランの「支配」をレバノンを訪れることによって調査することができた。また、同時に、欧州人権条約において外国領域の実効的支配に基づく条約の域外適用の例としてしばしば議論の焦点になるキプロスのトルコ占領地域(北キプロス)も訪問し、「占領」「プロクシによる統治」の実体を調査することができた。 年度終盤には、新型コロナウイルスの急拡大により、学術調査(文献、実地を含め)が思うとおり進められなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度、海外出張が可能になれば、いくつかの「被占領地域」を訪問できればと考えている。出張の見込みが立たない場合には、インターネットを通じた関係者・海外研究者のインタビューや資料収集などのオプションを模索したいと考えている。
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Causes of Carryover |
2月~3月にかけて、国内・海外出張が大幅に制限されたことが理由。コロナウイルスの影響が収束し次第、必要な出張を行う予定である。万が一、2020年度終盤まで出張に制約が伴う場合には、インターネットを通じた意見聴取や資料収集の方策を考えることとしたい。
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