2018 Fiscal Year Research-status Report
Who is to be singled out as the principal actor of a crime of aggression ? - From the viewpoint of "Control Theory" used by the International Criminal Court
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18K01288
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
木原 正樹 神戸学院大学, 法学部, 教授 (90461011)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 侵略犯罪 / 国際刑事裁判所 / 平和に対する罪 / Control Theory / 犯罪共同実体(JCE) |
Outline of Annual Research Achievements |
民族浄化など大規模な組織犯罪の「指導者」について、旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY)では「共同犯罪実体(JCE)」という概念を用いて、「指導者」と直接手を下した者とが同じJCEに属する場合は、その「指導者」が「人道に対する罪」などを実行したものと解釈して、処罰してきた。しかし、「共謀がなくとも正犯責任を科す」というJCE概念は、個人責任主義からの批判が絶えない。そこで、国際刑事裁判所(ICC)は、JCE概念を採用せず、代わって、いわゆる「コントロール」理論を採用した。この「コントロール」理論とは、直接犯罪行為を行った者を含む組織をコントロールした「指導者」に対して正犯責任を科す理論である。 一方、ICC規程の「侵略犯罪」定義は、国家による侵略行為を前提としつつ、「国の政治的又は軍事的行動を実効的に支配又は指揮する地位にある者」が国家に侵略行為を行わせた場合に、その「指導者」を「侵略犯罪」の正犯としている。そこで、「侵略犯罪」の処罰にこそ、大規模な組織犯罪をコントロールした者を正犯とするというICCの「コントロール」理論が不可欠となるのではないか、という「問い」が生まれ、この問いに答えるための研究を行っている。 具体的には、第一に、「コントロール」理論の意義と問題点につき、「犯罪共同実体」概念と比較検討するために、一方で、「犯罪共同実体」を用いた、重要な最新判例であるカラジッチ事件とムラジッチ事件を「コントロール」理論に照らして再検討し、他方で、ICCの判事などに「コントロール」理論に対する意見をうかがった。第二に、「平和に対する罪」の正犯につき、上記のような「指導者」要件のなかったニュルンベルグ裁判では、どのように考えられ、処罰されてきたのか、を検証するために、ニュルンベルグ裁判記念館の責任者と侵略犯罪に詳しいドイツの研究者にインタビューを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、第一に、国際刑事裁判所(ICC)のあるオランダのハーグに行った後、フュルト裁判所およびニュルンベルグ裁判記念館があるドイツに行き、現地の専門家にインタビューを行い、現地のニュルンベルグ裁判に関する資料について調査を行った。 具体的には、まず、国際刑事裁判所に行き、スーダンのバシル大統領の事件に関する公判を傍聴した。これにより、国際刑事裁判の実態を知ることができ、国際刑事裁判所の対象犯罪である「侵略犯罪」に関する研究について、実態を踏まえて進めることができるようになった。次に、同裁判所の赤根判事、同裁判所で裁判継続中の尾崎元判事および同裁判所のリーガル・アシスタントのジャグリン氏とのインタビューを行った。これにより、国際刑事裁判所の実行を知ることができたうえ、3氏の意見を聞き、「コントロール」理論の意義と問題点、および「侵略犯罪」の処罰に関して大変参考になった。さらに、ニュルンベルグ裁判記念館に行き、同記念館見学と、同記念館の責任者のミックス氏へのインタビューを行った。最後に、フリードリヒ・アレキサンダー大学に行き、同大学のザッファリング教授という「侵略犯罪」の専門家へのインタビューを行った。これにより、「侵略犯罪」の前身である「平和に対する罪」処罰の実態や、ドイツ刑法上の「侵略犯罪」規定などを知ることができ、「侵略犯罪」の処罰に関する研究を進めるうえで大変参考になった。 一方、国内では、「犯罪共同実体」についての重要な最新判例であるカラジッチ事件とムラジッチ事件のICTY第一審裁判所判決について「コントロール」理論に照らして再検討し、これを論文の形にまとめると同時に、近日中に研究会でも報告し、議論する予定である。 ただし、上記の研究に追われ、極東国際軍事裁判の資料収集を目的とした東京での調査は行えなかった。この調査は、2年目以降に行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目にあたる今年度は、専門家を招いた研究会を開催し、「侵略犯罪」をめぐる問題状況の整理と分析を行う。具体的には、2019年9月5日午後に神戸学院大学にて開催する。その冒頭で、私が科研費の応募趣旨について説明し、その後、2名の専門家の報告と議論を予定している。 その報告内容は、第一に、2017年に「侵略犯罪」に関するICC規程第8条の2という条文がアクティベートしたことを報告していただく。これにより、「侵略犯罪」規定をICCにおいて実際に適用することの意義と問題点について議論し、分析したい。第二に、すでに「コントロール」理論が採用されて、上訴審判決まで確定している「(狭義の)戦争犯罪」と、「侵略犯罪」の比較検討に関して、報告していただく。これにより、はたして、「侵略犯罪」における指導者要件の範囲を明確にするために「コントロール」理論が有益なのかどうかについて議論し、検討したい。その際、「コントロール」理論が不十分である可能性も念頭において研究を進め、その正確な意義と限界について分析するよう留意する。 これを契機として、先行研究の分析を行う。具体的には、「コントロール」理論の採用されたICC判例と、そのルーツと考えられるアイヒマン裁判、ニュルンベルグ裁判および極東国際軍事裁判判例についての先行研究の分析を行う。その目的は、アイヒマン裁判からICC予審決定に至る「コントロール」理論の分析、および極東国際軍事裁判とニュルンベルグ裁判の「コントロール」理論に照らした分析を行うことにある。そのために、初年度に行えなかった、極東国際軍事裁判の資料収集を目的とした東京での資料調査も行う。 3年目にあたる来年度も、専門家を招いた研究会を開催し、「侵略犯罪」における指導者要件の範囲を明確にするために「コントロール」理論が有益なのかどうか、という点について一定の結論を出したい。
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Causes of Carryover |
11,810円で購入できる適切な図書などが見当たらなかったために、その金額だけ次年度使用額が生じた。 そこで、その金額を今年度支給額のうちの図書購入額に加えて、適切な図書を購入する予定である。具体的には、「コントロール」理論の採用されたICC判例、または、そのルーツと考えられるアイヒマン裁判、ニュルンベルグ裁判、極東国際軍事裁判判例についての先行研究の掲載されている図書を購入する予定である。
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Research Products
(1 results)