2018 Fiscal Year Research-status Report
Study of the problem of the labor law around the crowdworkers in China
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18K01299
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山下 昇 九州大学, 法学研究院, 教授 (60352118)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 労働時間規制 / 賃金支払 / 労働法 / クラウドワーカー / 集団的労働紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度において、中国におけるクラウドソーシングの一形態として、「ライドシェア」の仕組みと「飲食店の料理のデリバリー」等のバイク便などの実情について、中国人民大学の彭光華副教授などから聞き取りを行ったほか、日本での日中シンポジウムなどに参加して、中国の動向に関する報告から多くの示唆を得た。こうした研究から、特に「飲食店の料理のデリバリー」等のバイク便については、北京や上海だけでなく、地方の都市部でも広く普及していることが分かった。また、中国国内でも研究が進められているが、多くは、経済学・社会学の研究が中心である。なお、本年度は、北京での実情把握のみに終わったため、来年度以降は、他の地域の実情も検討したい。 法的な分析の視角としては、①労働時間と②報酬(賃金)支払に対する規制、③解約に関する裁判例、④クラウドワーカーが利用できる紛争解決手続、⑤集団的紛争の解決可能性について研究を行うこととしているが、クラウドワーカーをめぐる裁判例も、中国の文献で紹介されており、現在、こうした裁判例の検討を進めており、来年度以降に、公表論文としてまとめたいと考えている。 また、こうした事業に従事する者は、基本的に従前から存在する非正規雇用労働者であり、中国における非正規雇用の解雇問題についても検討を行った。その他、「書評・森下之博著『中国賃金決定法の構造-社会主義秩序と市場経済秩序の交錯』(早稲田大学出版部、2017年)」(季刊労働法261号201頁-204頁)において、中国における賃金決定の基本的な法構造の分析から多くの示唆を得た。 一方で、日本法については、「雇用終了のルールの明確化とその紛争解決制度の課題」(日本労働法学会誌131号19頁-35頁)において、一般的な解雇規制のルールを分析し、今後は、こうしたルールがクラウドワーカーにどのように適用されるかについて分析していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、【研究実績の概要】で示した通り、「ライドシェア」の仕組みと「飲食店の料理のデリバリー」等のバイク便などについて、中国の実情について現状の把握に努める一方で、裁判例の収集を行い、その翻訳や検討を進めている。特に、解雇や事業遂行中の災害に対する補償の問題は、多くの裁判例で問題になっている。 また、労働時間規制については、「固定残業代の適法性と法内残業に対する賃金-学校法人D学園事件」(法学セミナー769号131頁)や「業務手当の時間外労働等に対する対価該当性-未払い賃金等請求事件」(法学セミナー765号127頁)などを通じて、日本における労働時間規制の法的分析を行った。こうした法的規制をクラウドワーカーにどのように適用するかが、今後の大きな検討課題であることが明らかになった。 そして、日本において、非雇用的な就労者の集団的紛争をめぐって、裁判例や労働委員会命令で問題となっている。例えば、国・中労委(NHK)事件・東京高判平30・1・25労働判例1190号54頁では、NHKの料金徴収員について、団体交渉権を行使できる主体としての労働者性が認められる判断がなされる一方、コンビニ事業者が、コンビニのフランチャイザーに対して団体交渉を求めた事案について、フランチャイザーに団交応諾義務を認めた東京都労委や岡山県労委の命令の再審査事件で、中労委がこれを否定するなどしており、日本でも大きな動きがみられる。本年度は、こうした動きを分析していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】で触れたように、裁判例等の検討については、中国法及び日本法での新たな動きに関する情報を収集し、分析を行っている。2019年度において、こうした分析をまとめて、日中におけるクラウドワーカーの現状と判例の動きについて、それぞれまとめていきたいと考えている。中国においては、個別的な紛争(例えば、契約終了や事業遂行中の災害時の補償など)が問題となっている一方、日本では、集団的な紛争として顕在化している現状を分析したい。 【研究実績の概要】で示した通り、本研究の課題としては、①労働時間規制、②報酬(賃金)支払に対する規制、③解約に関する規制と裁判例、④クラウドワーカーが利用できる紛争解決手続、⑤集団的紛争の解決可能性が挙げられる。このうち、⑤については、少なくとも中国においては、一般的な労働者についても、集団的紛争の解決は非常に困難であり、そこには社会主義を前提とする中国の法制度の問題がある。一方で、実情としては、そうした紛争が生じうる可能性があり、この点は、やや長期的な検討・分析が必要である。そして、⑤の課題は、④の課題とも関連するものであり、④⑤について、本研究課題の最終年度までに一定の分析を行いたい。 他方で、日本法は、①~⑤の課題について、2019年度は特に、①~③を中心に分析を行いつつ、④⑤の課題についても適宜分析を行っていく。また、①~③に関する中国法の分析も、収集した裁判例等の資料を分析して、日本法と対比しつつ、検討していく予定である。
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Research Products
(6 results)