2020 Fiscal Year Research-status Report
Study of the problem of the labor law around the crowdworkers in China
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18K01299
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山下 昇 九州大学, 法学研究院, 教授 (60352118)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 新型コロナウイルス / 雇用調整助成金 / 雇用保険 / 雇用類似の就業 / 創業支援 / プラットフォーム |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、2019年度に引き続き、中国におけるクラウドソーシングの実情について情報収集を行い、具体的な研究課題、すなわち、①労働時間と②報酬支払、③解約に関するルール、④紛争解決手続について、研究を行うことを予定していた。しかし、2019年度末からの新型コロナウイルス感染症の問題もあり、基本的には文献研究が中心となり、中国の実態把握が必ずしも十分にはできなかった。 一方で、外出制限などを受けて、プラットフォームビジネスは、日本や中国を含め、世界的に拡大しており、日本の状況などについて、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた研究を進めた。また、労働法の領域では、景気低迷などを受けた休業補償や離職の問題のほか、在宅勤務(リモートワーク)の普及など、これまでとは違った視点での研究が必要となった。 こうした状況を踏まえ、日本の状況について研究を進めたが、例えば、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクの高い労働者が、休暇や休業の取得を求めたり、勤務継続を諦めて辞職した場合の法的問題を検討したものとして、「仕事を止めるときと辞めるとき」法学セミナー789号39頁があり、休業等に対応した雇用保険制度の動きに関して、「新型コロナウイルス感染拡大と雇用保険制度」季刊労働法271号,38頁としてまとめた。さらに、高年齢者の働き方の拡大を求める高年齢者雇用安定法の改正について検討したものとして「高年齢者の就業機会の確保と高年法等の改正」労働法律旬報1979号35頁がある。これは、雇用以外の就労形態を拡大させるもので、本研究の対象とする雇用類似の就労形態に対して、高年齢者の特性を踏まえてどのような規制を行うかという課題を検討した。また、現在、中国と日本との労働法比較を行う研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の状況については、新型コロナウイルス感染症の観点から、雇用及び雇用以外の就業に関して、新たな視点から研究が進捗したと考えている。一定の長期間にわたり就業継続が困難な状況に置かれた場合の所得補償などの問題は、あまり具体的に認識されていなかった課題であり、本研究を拡充する意義を有する。特に、雇用調整助成金による休業時の補償と自営業者に対する持続化給付金との制度的バランスは、雇用労働従事者と雇用類似の就業者との生活保障の均衡を考えるうえで重要な課題である。 また、これまで有期労働契約労働者やパートタイム労働者、派遣労働者の増加を通じて「雇用」による就業拡大を図ってきたが、今後は、高年齢者の就業確保を含めて、社会貢献事業への従事といった雇用以外の就業を拡大する上で、雇用以外の就業に対する法的保護が大きな課題となり得る。新型コロナウイルスの問題はそのような課題を鮮明したものであり、その点について、本年度の研究で検討を深めることができた。 現状では、中国に渡航して実態調査を行うことは難しいものの、今後は、文献研究などを通じて、新型コロナウイルス感染症の課題がある中で、中国が、拡大するクラウドワークについて、どのように対応しているかを検討していく予定である。 また、中国のプラットフォームビジネスは、例えば、滴滴(Didi)など、日本にも入ってきており、タクシーの配車サービスや電子決済システムもこの1年で中国の技術が取り入れられている。こうした中国の技術を踏まえた日本の動向は、中国の状況に対する研究の重要性を示しており、クラウドワークの普及で先行する中国の研究を進めていきたい。 以上の通り、中国法の研究は、新型コロナウイルスの影響で不十分な点もあるが、日本法の研究では一定の進捗があったことから、全体としてみれば、概ね順調に進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、これまでの研究に加え、クラウドワーカーの就労条件等をめぐる集団的な紛争解決についても研究をする予定である。中国の研究については、まだ不十分な点があるものの、中国の労働法制について、現在、日本と比較しつつ、まとめる研究を進めている。 そして、中国のクラウドワーカーの実態の解明にあたり、現在の新型コロナウイルスの感染拡大の状況を見極めながら、進めていきたいと考える。中国法の研究については、計画当初は、中国の研究者との交流や現地での調査などを含めて進めていくこととしていたが、おそらく2021年中は、そうした手法が十分にはとれないことが予想される。この課題に対しては、文献研究に軸足を置くことにより、対応せざるを得ないが、中国でも、新たな状況を受けて研究が進捗しており、そうした知見を取り入れることにより、文献研究を通じて研究を進捗させたいと考えている。 一方で、当初計画したときよりも、クラウドワーカーの問題は広がりを見せており、さらに、新型コロナウイルスの影響を受けて、クラウドワーカーと一般の労働者の法規制の相違が明確となり、雇用労働の在り方も大きく変容している。例えば、労働時間や賃金に関しては、在宅勤務などの拡大により、職場という場所にとらわれない働き方が普及し、また、そうした働き方では、労働時間管理が難しく、賃金も成果や業績を中心としたものとなる可能性がある。その場合、雇用と請負・委任などの中間形態の就労との境目が曖昧になる。雇用(労働)に関する法規制をそうした中間形態の就労にどう拡大するかは大きな課題であり、日本と中国のこうした課題を含めて、研究をまとめたい。当初の研究計画とはやや異なるが、新たな視点で研究を総括する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、各年度に1ないし2回程度、中国での研究者との学術交流や調査を予定していたが、2020年度中に計画していた中国の研究者との交流等のための海外旅費の執行について、新型コロナウイルスの感染拡大を考慮して、出張を中止せざるを得なかった。2021年度中に、中国への渡航が可能になった場合には、中国の研究者への聞き取り調査や資料収集を行うために次年度使用額について執行したいと考えているが、それが困難な場合には、文献調査などに注力するため、文献購入などに充てる予定である。
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