2019 Fiscal Year Research-status Report
独占禁止法の消費者保護機能に関する考察-顧客誘引規制を手がかりとして
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18K01301
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
岩本 諭 佐賀大学, 経済学部, 教授 (00284604)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 競争法 / 独占禁止法 / 消費者保護 / 顧客誘引 / 景品表示法 / デジタルフラットフォーマー / 消費者概念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は3年間の研究期間の2年目であり、日本の競争法(本研究では独占禁止法、景品表示法を主軸として形成されてきた法領域を指す。)の消費者保護機能の今日的課題を整理するとともに、今日の経済と市場を席捲するGAFAを典型とするデジタルフラットフォーマー(DP)の競争と取引の現状を把握し、市場の多面性を特性として成長するDPと消費者との取引の公正確保の在り方について考察してきた。 競争法における消費者保護制度の構築と展開に際して、保護の対象となる「消費者」そのものに着目した議論と理論は不可欠である。かかる視点に基づく制度設計が行われてきたEU(その前身であるEEC、EC時代を含む。)とドイツの競争法における理論と法制度の状況を比較対象として、日本における「消費者とは何か」という問いかけ(消費者概念)の不在が、拡大する電子商取引における消費者保護の不全をもたらしていることについて、単著『競争法における「脆弱な消費者」の法理』(2019年9月、総頁数552頁)を上梓する機会を得た。また、日本経済法学会(2019年10月)において「競争法と消費者」をテーマとするシンポジウムが開催され、コーディネーター兼報告者として競争法の消費者保護機能について考察と討論を行った(論文「競争法の消費者保護機能の可能性と課題」日本経済法編『競争法と消費者』学会年報40号、2019年10月)。 当年度後半には、デジタルフラットフォーマー規制について、国レベルにおける制度の在り方についての検討が本格化し、独占禁止法の「優越的地位の濫用」の適用によるDPと消費者との取引規制が明確化されたことを受けて、「デジタルフラットフォーマーと競争法」(学術誌『現代消費者法46号』2020年3月)を公表し、独占禁止法による消費者保護の可能性と課題について言及する機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3年間の研究期間の中間に当る本年度において、本研究申請当初に予定していた以上の研究成果を公表する機会を得ることができた。具体的には以下の事項が挙げられる。 ・本年度に、本研究内容に関する単著(本文総頁数 512頁)を上梓することができた。 ・本研究成果については学会報告することを予定していたが、本年度に開催された日本経済法学会のシンポジウムにおいて、コーディネーターとして報告を行うとともに、シンポジウム・パネルディスカッションの司会の役割を担う機会が付与された。 ・学会後に、2つの専門誌(「公正取引」、「現代消費者法」)に本研究内容にかかわる表題での寄稿依頼があり、当研究年度に公表することができた。
なお、当研究年度の後半期(2020年2月および3月)に研究会参加と資料収集のための出張を予定していたところ、感染症にかかる自粛要請(による研究会中止)とリスク回避に基づき、これらの出張が取りやめとなった。これらに係る経費については次年度において支出する予定であるが、引き続き諸情勢を踏まえて適切に対処する。また、外国文献(ドイツ語文献)の購入の予定があったが、総代理店から当年度中の入手は困難であるとの情報があったため、入手に向けた手続を中断しており、次年度に諸情勢を踏まえて対応を再検討する予定である。また、当年度10月下旬に使用していたノート型パソコンの電源と液晶が故障するトラブルが発生したため、その週に報告と司会を務める日本経済法学会での業務の支障を回避する緊急性から、故障したパソコンとほぼ同型のパソコンの購入を行ったことについても報告する。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、3年間の研究期間の最終年度であり、本研究の成果を取りまとめ、学術論文として公表することを予定している。テーマである競争法・独占禁止法の消費者保護機能が、GAFAを典型とするデジタルフラットフォーマーが席巻する市場において惹起している課題と対峙しつつ、どのように展開していくのか、その可能性を明らかにすることを通じて研究を総括することを予定している。
他方、感染症の世界的流行の現状において、当初想定していなかった経済や市場のきわめて大きな変化が起きるおそれがあり、かかる事態を本研究の中で、どのように捉えるべきかについて注視する必要がある。
すでに2019年度の終盤から、研究会中止等が相次ぎ、また2020年4月の時点で当面の研究会の中止・延期が伝えられてきており、研究報告の機会はもとより、資料収集の機会も確保できない状況が見られる。学会や研究会の主催事務局の対応(オンライン形式により代替可能なのかどうか)、他の方法による資料収集の可能性の有無などについて、刻々と変化する情勢の中、適切な対応をとることを心掛けて研究の遂行を全うすることにしたい。
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Causes of Carryover |
当年度に参加を予定していた研究会(東京経済法研究会、経済法判例研究会2020年2月~3月)が中止となったこと、及び購入を予定していたドイツ語文献の年度内の輸入が不能となったために、支出予定に変更が生じた。次年度において、中止となった上記研究会が開催される場合には参加し、また購入を予定しているドイツ語文献の輸入等が可能となった場合には購入手続を進めることとする。引き続き、感染症の影響が続く場合には、関連する文献の他機関等との相互リファレンスを活用することにより、代替文献の収集に努めることとする。
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