2020 Fiscal Year Research-status Report
独占禁止法の消費者保護機能に関する考察-顧客誘引規制を手がかりとして
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18K01301
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
岩本 諭 佐賀大学, 経済学部, 教授 (00284604)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 競争法 / 独占禁止法 / 景品表示法 / 顧客誘引規制 / 民事規律 / 消費者保護機能 / 消費者概念 / 公正競争 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度は3年間の研究最終期間に当り、当初計画書(申請書記載)では「民事規律と行政規制によるドイツ・EUの法執行力を調査し、行政規制を中心とする日本の競争法への適格消費者団体による民事規律の導入による新たな執行体制を検討することにより、消費者法体系における競争法の位置付けを明らかにする」ため、洋書・邦書の文献調査、国内の諸関係機関へのヒアリング調査により研究統括を行うことが予定されていた。 コロナ感染症蔓延の影響下において、ドイツ語雑誌文献の収集と関係機関へのヒアリング調査、研究会参加が軒並み中止となったが、邦書や洋書等の文献調査により、以下の成果を公表する機会を得た。 消費者保護機能を担う中核法である景品表示法に関する研究では、①「「景表法8条1項但書にいう『相当な注意を怠った者』」(『令和元年度重要判例解説』ジュリスト4月臨時増刊249-250頁、2020年4月)、②「プラットフォーム通信販売事業者の二重価格表示に対する景品表示法に基づく措置命令取消訴訟判決-『Amazon事件』」令和元年11月15日東京地裁判決」(『公正取引』837号68-74頁、2020年7月)、また本研究の中心的視点である消費者概念に関する研究では、③「脆弱な消費者」(河上正二=沖野眞巳編『消費者法判例百選〔第2版〕』別冊ジュリスト249号28頁、有斐閣、2020年9月)を公表した。 このコロナ禍における消費者の立ち位置や権利について、学術論文「国民生活安定緊急措置法と消費者-経済法学の立場からの検討-」(現代消費者法49号35-43頁、民事法研究会、2020年12月)の公表の機会を得た。 また、専門誌特集として、本研究者と2名の研究者、消費者庁審議官との座談会「景品表示法違反事件の動向」(公正取引842号7-22頁)への参加の機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、本研究の最終年度であり、これまでの2年間の研究成果を基に「最終取りまとめ」を行う予定であり、最新のドイツとEUの判例や論文等を収集し、また必要に応じて関係諸機関とのヒアリングを実施するとともに、所属する研究会等での報告を行い研究を総括する予定であった。 研究内容については、当初予定のとおり進捗しているが、最終年度時点での最新の動向を踏まえた取りまとめ作業が、コロナ感染症蔓延に伴う東京方面の大学図書館の外部入館の中止・制限、国会図書館での入館制限等の措置により、ドイツ語法律専門誌(所属機関の電子ジャーナルに未収録)の判例・文献の入手・複写ができなくなったことにより、この作業が中断した状況にある。他方、ドイツ語と英語の文献(書籍)については、年度前半は困難であったが、年度後半には購入等が比較的容易になったこともあり、最新の理論動向については、一定程度接することができた。代理店を通じて、ドイツ国内で刊行されている本研究に関する複数のドイツ語の法律専門雑誌の年間分の購入の打診を試みたが、電子ジャーナル契約との一体購入が条件とされるため購入は断念した。 本研究機関の延長が認められたため、コロナ感染症と国・自治体等の対応状況を見極め、国内の他大学や国会図書館において2021年刊行分の最新情報を含めた判例等の文献入手に努め、当初の研究目標を達成したい。 また、最終年度の研究成果の取りまとめ作業の補助として、学生への業務依頼を予定していたが、学生入構禁止措置等により同依頼は当年度には実施していない。次年度には、安全確保等の全体状況を見極めながら、必要な範囲で実施を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
前記「現在までの進捗状況」に記述したように、ドイツ・EUの競争法における消費者保護機能に関する判例(及び評釈)と学術論文等の資料収集を円滑に行うことにより、日本における競争法が抱える行政規制中心モデルに起因する課題を明確にし、その課題克服に向けた民事規律の導入(ベスト・ミックス)の在り方を「最終取りまとめ」としたい。 併せて、昨年度新たな研究視点を醸成する機会を頂いた「災害(感染症を含む)と消費者」というテーマは、競争法や消費者法の本来目的を真っ向対立する目的を有する国民生活安定緊急措置法等の枠組における消費者の権利や利益をどのように性格づけるかという問題の考察を求めるものであり、本研究テーマである消費者保護のあり方を国家マクロの観点から考える重要な機会となりえたことから、さらに引き続き、考察を継続し、「最終取りまとめ」の中で成果を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
当年度の当初予算では、研究の最終取りまとめとして、所属大学の電子ジャーナルに収録されていないドイツ語法律雑誌を中心とする文献調査のための旅費(東京大学、上智大学等の大学附属図書館、国立国会図書館)、公正取引委員会、消費者庁、適格消費者団体、日弁連等の関係諸機関へのヒアリング調査のための旅費、および所属する学会と研究会での成果公表のための旅費を計上していたが、コロナ感染症蔓延の影響(図書館等の入館規制、学会、研究会の中止、一部オンライン実施への変更、関係機関へのヒアリングの自粛と調整不能等)により、福岡市で開催された一つの学会支部会での研究打ち合わせ(日帰り)の一回のみにとどまった。このため予定旅費の全額近い残額が発生した。 また、物品費については、予定額より93.000円程超過支出となったが、入手不能となったドイツ・EUの最新の判例や理論等の内容を少しでも補充する必要から、予定よりも多くの冊数のドイツ語と英語の書籍文献の購入に至ったことによるものである。
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