2019 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Death Penalty and the Innocent Cases in China
Project/Area Number |
18K01311
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
王 雲海 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (30240568)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中国の死刑 / 死刑冤罪 / 死刑の政治性 / 掃黒除悪 / 死刑冤罪是正 / 政治的刑事政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、前半はほぼ当初の研究計画通り研究を実施し、中国に行って死刑冤罪の是正に取り込んでいる弁護士、一部の被害者、検察官、裁判官と接触して、中国の国全体の政治政策と個々のケースという二つの方向から中国の死刑冤罪発生の原因を探って、数年前の状況と現在の状況を比較しながら、中国での死刑冤罪の最大原因であるその死刑の「政治性」がどこまで改善されたか、また、逆にどこまで改善されず、強化されたかを中心に調査、検討を行った。その結果として、以下のようなことが判明されて、従来のように「政治性」という独自な視点での研究ができた。 第一に、「掃黒除悪」という政治的刑事政策が従来のような「厳打キャンペーン」と同じようにまたはそれ以上に政治的に進められて、多くのところでいわゆる「黒社会犯罪」(日本語で言うと「組織犯罪」)を摘発するためのノルーマを上層部・上級部が事実上提示し、その達成を強く要求し、その成果と昇進とを結びつけさせている。これに伴って、一定の死刑事件も厳格的に法律に従って判決を言い渡されるよりも、政治上の需要性の考慮から出たものである。従来のように「政治性」に起因する死刑冤罪の可能性が依然として強く存在している。 第二に、個々のケースの調査では、死刑判決が世論や指導者の意向などにより影響される場合が依然としてあることが判明され、一定の事件においては弁護士による本格的弁護が難しくなったり、検察や人民法院が公判での手続き、特に弁護士による弁護を無視して死刑判決を言い渡すことも依然としてある。また、「掃黒除悪」というキャンペーンに対応するためにあまりにも早く審理して判決を急いで言い渡す場合もある。 結論として、中国での死刑の「政治性」が近年弱まるどころか、強化されてしまっており、死刑冤罪の発生原因として依然として存在していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初から、中国での死刑冤罪は「政治的構造的死刑冤罪」であって、日本や欧米での「法律的技術的死刑冤罪」とは本質的に違うものとして、中国での死刑冤罪の原因を研究するにあたって、このような「政治性・構造性」の解明がこそ最も重要であるという問題意識を抱いていた。同時に、本研究の期間中、中国は「法治国家」の目標を一層明白にし、一層本格的に推進して行くとも期待を抱いていた。しかし、そのような期待とは逆に、本研究が始まった時点で、特に2019年度は、中国での「掃黒除悪」という政治キャンペーンが予想よりも強く全面的に進められるようになり、刑事司法の「法治性」よりもその「政治性」が完全に前面に出てしまっている。 このような中国の実情は、法治主義の期待からしては決して望ましいことではないが、研究として中国の死刑冤罪の原因を解明するという本研究の目的・目標からすれば、本研究の手法の正確性を裏付けるものとなっており、本研究で提出した中国の死刑の「政治性」、中国の死刑冤罪の「政治的構造的冤罪性」という概念・発想は、今の中国の現実により、中国の学界だけでなく、日本や欧米などの学界、国連の関係機関からも、中国死刑とその冤罪を解明するもっとも有効で正確なものとして受け入れられて、使われるようになっている。これは、本研究の独自で大きな成果となっている。本研究が順調に展開されていることを物語っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年の年末から2020年春にかけて、コロナウイルスの影響で、本来予定されていた中国の現地調査や現地の死刑冤罪被害者、弁護士、検察官、裁判官、新聞記者などとの接触、聞き取り調査が一部実施できなくなった。そのうえ、中国の政治情勢が変わって、いろいろな学術論文や著書の発表が慎重にならざるを得なくなっている。このような状況の下で、2020年度は本研究を完遂するうえで一層重要な年度になっている。これを常に意識し、コロナウイルスの情勢が良くなって、往来が可能になっていれば、全力を上げて本研究を当初の予定通りないしそれ以上に推進していこうと思っている。 まず、中国に行ってより多くの地方の「掃黒除悪」の実態を引き続き把握し、それと死刑の適用、死刑冤罪発生の状況との関係を把握し、究明する。同時に、中国の刑事政策の全体の状況を引き続き把握し、それと死刑の適用、死刑冤罪との関係、変化を究明する。 次に、日本や欧米の死刑の「法治性」そしてそこでの死刑冤罪の法律性技術性」の視点から今後の中国の死刑制度、特に死刑冤罪の是正、防止のあるべき姿を検討し、その将来を予測し、いろいろな方法を駆使して、中国の関係機関に提言し、中国への死刑改革に本研究からの寄与をする。 最後に、2020年度は本研究の最終年度であるので、本研究の研究成果を日本語、中国語、英語で発表する。
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Causes of Carryover |
2019年度は、コロナウイルスの影響で予定されていた年末の現地調査と会議の開催が実施できなくなった。しかし、2020年度は、2019年度では実施できなかった部分も含めて、現地調査、国際会議の開催、冤罪被害者、弁護士、検察官、裁判官への訪問インタビューを多く予定、準備しており、コロナウイルスの情勢が良くなっていれば、すぐ実施てできるような体制となっている。また、研究の最終年度であるので、本研究の成果を日本語、中国語、英語での発表、出版にも力を入れる予定である。それらの研究活動を遂行するためには直接経費として1,043,513円を使う予定である。
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Research Products
(3 results)