2019 Fiscal Year Research-status Report
矯正保護の専門化と官・民、官・官の協働による担い手構造の変革に関する日仏比較研究
Project/Area Number |
18K01323
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
赤池 一将 龍谷大学, 法学部, 教授 (30212393)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 官・民協働 / 官・官協働 / アソシエーション / 矯正施設 / 民営化 / 更生・保護 / 移管 / PPP |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「矯正保護は、本来、誰が担うべきか?」という問いを基軸に、フランスにおいて矯正保護活動への自治体等の参画(官・官の協働)や市民団体の参加(官・民の協働)がなぜ可能とされ、その協働がいかに構築されているかを分析し、日本の矯正保護の現場で、従来の行刑完結主義を克服して、刑務官や保護観察官が、多様な専門家である新しい担い手と協働するためには何が必要かを具体的な法的・制度的設計として提示するものである。 特に、研究代表者が2019年度においては、前年10月から1年弱、龍谷大学による在外研究を得ることができた事情もあり、かねてから研究面での連絡関係の深いエクス・マルセイユ大学に滞在し、ボンフィス教授等の犯罪学研究所のスタッフの協力を得ながら、マルセイユを中心に官・民の協働関係が最も深いと考えられる少年矯正の人的構成について、市民団体、少年保護施設、少年院、少年刑務所等を訪ね、その担い手と意見交換を行うことによって、矯正における官・民協働のあり方とその基盤について理解を深めた。さらに、2019年12月には、司法省青少年司法保護局のショケ前研究部長を招聘して、少年司法における官・民の連携の現状について日本の少年法改正論議を踏まえた研究会をもった。 他方、これまで刑事法分野においては研究がまったく手付かずのままにあった官・官の協働(中央省庁間での協働、中央官庁と地方自治体等との協働等)については、フランスの刑事施設医療の構成において、その責任と担い手を司法省矯正局から厚生省に移管した経緯とその理論的課題に関するこれまでの検討を整理し、ポワチエ大学犯罪学研究所のダンティ・ジュアン教授のもとで研究会を開催して報告および意見交換を行うことができた。フランスの1994年改革以前の状況との比較で、日本の実務状況の歴史的な位相を改めて整理することがかない、有益な機会となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由 2019年度はフランスでの在外研究を10月まで実施したことから、一方で、すでに言及したとおり、エクス・マルセイユ大学犯罪学研究所の研究者とともに研究交流を重ね、マルセイユでの少年関連施設における官・民の人的協働に焦点を定めた調査を実施した。また、帰国後も年末に司法省青少年司法保護局の前研究部長ショケ氏を招聘して、日本の少年法改正を念頭に、フランスとの比較における少年矯正での官・民の人的構成について研究会を開催することができた。 これらの点では一定の成果をあげることができていると判断できるが、フランスにおいて、県との協定に基づき判決前調査や再犯防止活動等の、刑事司法運営と大きく関わる諸活動を実施するいくつかの民間団体の活動調査を年度末に企画しながら、同時期の感染症の世界的広がりのなかで、これを実施することができぬままの状況にある。本研究にとっては重要な調査であることを考えると、この点の遅れは大きいと言わざるをえない。 また、官・官の協働(中央省庁間での協働、中央官庁と地方自治体等との協働等)については、刑事施設医療におけるの構成に関する編著において、その責任と担い手を司法省矯正局から厚生省に移管した経緯に関するこれまでの検討を整理したが、フランスの刑事施設での官・官の協働については、特に、1990年代以降の、いわゆる「社会化政策」展開のなかで、教育、職業訓練、スポーツ、文化活動等、医療以外の分野での官・官協働の状況に関心が広がり、これまでの調査においてもその広がりを強く認識してきたにも関わらず、この点での調査と検討が計画通りに実施されているとは言い難い状況があり、今後、早急に補充すべき課題として意識しているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は研究の対象を、まず、昨年度実施を予定しながら達成できていない2つの問題、すなわち、官・民の協働に関しては、フランスに存在する県との協定に基づき判決前調査や再犯防止活動等の、刑事司法運営と大きく関わる諸活動を実施するいくつかの民間団体の活動調査を実施する。次いで、調査が遅れているフランスの刑事施設における医療以外の分野での官・官の協働に関する調査と検討を実施する。 しかし、これらの調査と理解のためには、フランス現地での調査に大きな比重が置かれてきたが、新型コロナウイルスの世界的流行のなかで年度内での調査が不可能となることも十分に想定されるため、実地調査にかわる調査手段を早急に検討て実現する必要がある。そこで、まず、メール等の通信手段による質疑応答等を円滑に進めたいと考えている。 その上で、2020年度が本研究の最終年度となることから、これまで以上に成果を意識して、第1に、刑事施設における官・民協働の変化(PFIからPPPへと進行したのち、改めてPFIに戻っている)に焦点をあてて理論分析を行う。次いで、特に、フランスの民間団体の資格要件、資格付与手続、活動内容の実際、国および自治体等との協定内容等について整理をしつつ、調査を基軸に更生保護支援官がどのような活動をどのような民間団体とどのように実施しているかを整理・検討する。
|
Causes of Carryover |
2019年度末にフランス、リヨン市およびグルノーブル市において、矯正事業自体を司法省と協働する民間団体に対する調査を予定していたが、新型コロナウイルスの世界的流行の到来によって、それを実現することが不可能となり、研究資金の支出が不可能となったため研究費の費消が不可能となった。2020年度は、当該感染症への対策と収束状況を注視しつつ、海外調査が可能な時期を早期に見定めて調査を実施したい。仮に、感染症の流行状況から海外調査が不可能であり続ける場合には、インターネット等を用いた海外との連絡により一定の研究を継続するとともに、国内での感染症の流行状況を見極めつつ、国内のPFI刑事施設の運営および施設医療に関する民間委託を実施してきた刑事施設への実地調査を繰り返し、その実施状況を継続的に観察するとともに、矯正医療以外の事業での民間委託と民間団体の矯正現場での活動に関心を広げた調査を実施することにより、当初の研究計画を補填させたいと考えている。
|