2021 Fiscal Year Research-status Report
高度自動運転に対応した損害賠償責任、保険、補償、求償制度に関する日独比較法研究
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18K01332
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
金岡 京子 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70377076)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 無人自動運転移動サービス / 道路交通法改正 / 自動車保険 / 傷害保険 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、無人自動運転移動サービスを実現するために、ドイツの道路交通法(2021年7月27日公布)が改正され、かつ、日本においても無人自動運転移動サービスの事業化に向けた道路交通法改正法案(2022年4月27日公布)の検討が進められていた状況を踏まえ、レベル4の自動運転技術段階の車両を無人で自律的に運行するために必要な法制度および対応する保険制度について、ドイツと日本の比較法的研究を実施した。 具体的には、無人で自動運転レベル4の車両を公道で運行するために備えるべき自律運転装置の要件、車両の保有者、車両外で監視し、事故が発生した場合に救護等の対応をする者、および車両の製造者の義務、自律運転中に保存すべきデータの種類、保存方法、保存義務者、保存義務者から交通事故被害者へのデータ引渡し義務、上記データの利活用等に定めたドイツ法の改正内容について、民事責任および損害をてん補する保険の観点から検討した。 本研究における検討の結果、無人自動運転移動サービスにおいては、車両を遠隔で監視し、必要な場合は車両に運転操作を指示し、または緊急時に車両内の人を救護するための義務を負う遠隔監視者の民事責任に対応する保険の制度設計が必要であることが明らかになった。 さらに本研究は、遠隔監視者を自賠責保険の被保険者に含めることによって、自動車保険制度の枠組みの中で、無人自動運転移動サービス中の事故による被害者の補償を実現し、自動車保険の被保険者でない真の加害者(たとえば車両の製造者)が特定されたとき、その者に自動車保険者が求償する仕組みを採用したドイツの保険制度設計は、今後の日本においても参考となることについて明らかにした。 さらに継続研究として、無人自動運転移動サービス中の遠隔監視者のモラルリスクを分析し、傷害保険において保険給付免責とすべき事案を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
車両内に人の運転者がいない無人で自動運転することが可能であって、かつ、限定地域内で無人自動運転する車両が緊急時に安全に停止することが技術上可能である自動運転レベル4の自動運転は、技術的には非常に高い自動運転レベルであるが、実証実験において、実用可能な段階にあることから、そのための法整備および保険の対応が大きな課題であった。 本研究は、ドイツが先行してレベル4の無人自動運転移動サービスの事業化に向けて同労交通法改正を行ったことを契機として、上記大きな課題についての比較法研究に早い段階から取り組み、2022年4月に成立した日本の道路交通法改正のタイミングと研究成果が適合する状況となったことから、本研究の進捗は順調に進展していると考えた。もっとも、ドイツでの法改正期間が非常に短期間であったこと、および新型コロナウィルス感染予防対策等の影響により、ドイツにおいて法改正について検証した公表論文数がレベル3の自動運転のための道路交通法改正時に比べ少なく、ドイツで実際に調査研究を実施することができなかったこともあり、ドイツ法の比較法研究については、まだ十分であるとは評価しがたいこともあるため、おおむねという限定評価をすべきであると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、積み残しとなった、レベル4の無人自動運転移動サービスのための道路交通法改正および自動車保険の枠組みの中での遠隔監視者責任の補償についてのドイツ法のさらに進展した学説について、現地調査および協力研究者との研究討論を含め実施することによって、より具体的に製造者、インフラ事業者、通信事業者、移動サービス事業者の民事責任、対応する保険、および証拠となる保存データおよびその他の物証に基づく真の加害者への求償体制を研究する。求償体制の研究においては、実効性のある求償体制を構築するために必要なデータのアクセス権限、保険者の利活用等についても研究対象とする 特に本年度は、研究最終年度になるため、車両および車両に組み込まれた自動運行措置の不具合を原因とする事故の場合のように、自動車保険者が製造者等に求償することとなった場合、製造者等がどのような保険による補償を確保すべきであるかについても検討する。 またAI、最新の画像、地図、通信手段等を活用した無人自動運転においては、これらの新技術を悪用したモラルハザードが発生することも懸念されることから、無人自動運転中の事故特有のモラルハザードを分析し、特に傷害保険において保険給付免責とすべき場合についても継続して研究対象とする。
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Causes of Carryover |
本年度は、新型コロナウィルス感染予防対策のため、ドイツへの海外出張ができなかっため、出張費に相当する金額を翌年度に使用することとしたため。 次年度において、ドイツベルリン自由大学法学部で研究調査をするための旅費として使用する予定である。
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