2019 Fiscal Year Research-status Report
倒産企業ガバナンス理論の目的論的再構築ー裁判所と手続機関の協働の観点からー
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18K01335
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
河崎 祐子 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (80328989)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 破産法 / ガバナンス / 裁判所 / 債権者集会 / 管財人 / 執行力 / 強制力 / 調整 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代の日本倒産処理法制におけるガバナンスのあり方の理論的解明を目的とする本研究課題において、31年度には、前年度の総論的な判例研究の成果を踏まえて各論的に手続機関と裁判所との「協働」について考察し、次の二つの新たな学術論文に結実した。昨年度執筆の論文とともに、それぞれ3冊の書籍上に公表されている。 まず、論説「倒産処理における関係人自治についての一考察」では、破産手続における債権者集会の法的位置づけの変容について、裁判所との「協働」関係に注目しつつ理論的考察を試みた。その結果、旧法下では債権者の集団的な手続関与の手法として「主体」的な側面が強調されていた債権者集会が、現行法において従来の破産法の「執行的性格」が取り払われ「淸算的方法」のみが継承されるなかで、より「客体」的な立場に位置づけられるに至ったことを明らかにした。これは、最高裁平成18年12月21日判決が示唆するように、破産管財人の法的地位が極めて不安定なものとなっている現状を的確に説明する分析であり、理論上のみならず実践上も重要な意味をもつ。 この一方で、裁判手続上の協働を論じるうえで裁判外手続との連関性を視野に入れる必要のあることを強く認識するに及んだため、3年度目の計画を前倒す形で裁判外手続に関する研究を並行して進めた。その成果が、論説「仲裁制度の法的位置づけ」である。同論攷では、裁判外での私的合意に国家の強制力(執行力)を結びつける法令上の文言「確定判決と同一の効力」に注目して、国家の司法制度とその外側にある仲裁制度との法的関係を理論的に明らかにした。近年高まる仲裁の実際上の重要性に加え、これまで機能的・実践的観点から議論されることの多かった裁判外手続に裁判手続の強制性の観点から理論的考察を加えているところに大きな意義があり、さらに、一般理論化の契機を秘めている点でも重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画初年度の30年度に行った総論的な判例研究の成果を踏まえて、31年度には手続機関と裁判所との「協働」について各論的に考察した。具体的には、研究計画に則り、裁判手続における手続機関に焦点を当てた当該年度には、特にガバナンスに関わる債権者のための手続機関、すなわち第一次的に債権者集会、これに関連して監査委員、債権者委員会について、破産手続の実働に携わる管財人との関わりをも視野に入れながら、裁判所との「協働」関係について予定通り考察を進め、学術論文にまとめた。それゆえ、本研究課題の研究計画通りに進捗しているということができる。さらに、上記論文の執筆の過程で、裁判外手続との連関性をも視野に入れて考察する必要性を強く認識するに至ったことから、次年度以降の計画を先取りする形で、裁判外手続に関する研究を並行して進め、その成果をも学術論文に結実させた。したがって、本研究課題は当初計画以上に順調に進捗していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまで順調に進捗している当初の研究計画に則って、引き続き研究を進める。具体的には、当該年度の研究成果の一つとして、倒産処理の基本法である破産法において、旧法下で認められていた「執行的性格」が失われ「淸算的方法」のみが継承されていることを突き止めたが、「執行的性格」すなわち国家の強制力こそ、本来裁判手続と裁判外手続とを決定的に区別するものであったはずである。しかも、限られた債務者財産の公平な分配という倒産処理の理念を実現するうえで法的強制力が必要となることに異論の余地はなく、ましてや現在の経済・社会情勢をも踏まえれば、倒産状態の究極的解決方法である破産から国家の強制力の契機が失われていることは、今後大きな問題となりうる。 したがって、倒産処理における裁判所と利害関係人・手続機関との「協働」に着目しつつ倒産処理法制におけるガバナンスのあり方を理論的に解明することを目的とする本研究課題において、今後の研究の焦点は、ガバナンスにおける国家の強制力の意義およびそれとの関係性に収斂していくことになる。そこで、計画三年度目となる令和2年度には、これまで研究対象外であった裁判外手続にも注意を払いながら、国家による執行の問題に焦点を当てて理論研究を進め、これを軸として最終年度に総とりまとめを行う準備としたい。また、これら研究の成果は学術論文の形に具体化し、原則として各年度内の公表を目指す。
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Causes of Carryover |
購入予定であった洋書の刊行が延期となったため。その後、令和2年6月頃刊行の見通しとの情報を得ているので、同年に改めて購入する。したがって使用計画に大きな変更はない。
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