2021 Fiscal Year Research-status Report
応能応益賃料・借上げ公営住宅に関する公営住宅提供契約の効力の解明
Project/Area Number |
18K01349
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
水野 吉章 関西大学, 法学部, 教授 (80527101)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 借上げ公営住宅 / 公営住宅法32条1項6号、22条1項24条1項 / 請求異議 / 明渡請求権の性質 / 法定建替事業 / 代替住宅 / 正当事由 |
Outline of Annual Research Achievements |
借上げ公営住宅に関し、原賃借人(事業主体)が原契約を解約した場合であっても、転借人(入居者)には公営住宅法22条1項及び24条の代替住宅が提供されることを理由として、事業主体から転借人に対する法32条1項6号の明渡しが正当化されるという判決に基づく執行の場面で、事業主体が条例によって代替住宅の提供を拒絶した上で判決の執行を求めている。対して、いずれかの公営住宅には住み続けることができることを理由とした明渡し判決に基づいて、いずれの公営住宅にも住み続けられることができないことになる明渡し執行をなし得るのかについて請求異議訴訟で争われた。 これについての評価は、法32条1項6号の請求権が如何なる明渡しを規定するのかに依存するから、これついて研究した。借上げ公営住宅における明渡しは、前提となる判決によれば事業主体の事情に基づいてなされるから、事業主体の事情に基づきなされる公営住宅建替事業(法定建替え)における明渡請求権との整合が求められる。法定建替えでは、入居者は、現居あるいは生活基盤を変えない近接地にて建て替えられた公営住宅に転居することが保障されており、明渡請求権は生活基盤を維持し得る住居への転居請求権の性質を有する。同じ性質を有するはずの、借上げ公営住宅に関しては、入居者の生活基盤を維持するような規定が存在していないから、明渡し執行が正当化されるためにはこれが確保されている必要がある。 それが不可能なら、判決の段階において、特定の代替住宅について事業主体に提案させる等してその正当性を判断するしかないことになる。(すなわち、正当事由に基づいて明渡し判決をなすしかない。)請求異議訴訟における当該地裁判決のように、いずれの段階でも生活基盤の確保をなさないという結論は、転居した入居者に関し何らの理由なくその賃貸借契約の解除を認めるに等しい実質を有するから違憲的な解釈であると言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この成果は、水野吉章「借上げ公営住宅に係る明渡請求権の意義:公営住宅における転居請求権」『研究双書第174冊 グローバル時代における関西の位置と社会経済問題の解決を考える』(関西大学経済・政治研究所、2022)133-172頁として、公表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
先述の通り、転居請求権に際しては、執行終了時において入居者の生活基盤を維持できることが求められ、明渡し判決段階と執行段階の法的扱いによって、このことが実現できるのかが問われることになる。したがって、執行段階の訴訟手続きにおいて、入居者の生活基盤を確保し得るような方策が講じることができないのであれば、明渡し判決の段階で、事業主体による賃貸借契約の解約についての正当事由を求め、その判断の中で、入居者の転居先となる代替住宅の妥当性を判定するしかない。そうなると、借上げ公営住宅における明渡請求権の性質は、同じ転居請求権でも、任意建替え(正当事由の判断を要する)におけるそれと類似してくる。 しかし、ここで問題となるが、そのような正当事由に基づく判断がなされた後に、その判断の前提となった代替住宅にスムーズに転居できることが法律上確保されているか否かということである。提供の申し出があった代替住宅を前提として、正当事由が充足され、賃貸借契約が解約されるとの判決がなされた後、代替住宅の提供がなされずに明渡し執行がなされることも考えら得る。同様に、法定建替え事業によらない任意建替え(賃貸借の解約に正当事由を要する)に関しても、同じ問題がある。公営住宅法はこの点において、規律が不明確であるように思われ、民法の賃貸借との対比も踏まえつつ、引き続き研究を行いたい。 今後、最高裁等で、明渡し判決の段階について判断がなされるとしても、先述の通り、執行段階で目的のために何をなし得るのかが明渡し請求の規律に関わってくるから、この関係を無視して、明渡し判決の段階において、法22条1項及び法24条1項がある(転居請求である)から正当事由は不要というような判断を安易になすべきではないことが留意される。研究成果については意見書を提出したい。
|
Causes of Carryover |
引き続きコロナ禍によりフィールドワークや国交省図書館・国会図書館などにも出張することができなかった。感染状況が落ち着いたら出張を行いたいと考えている。また、感染状況が落ち着かない場合には、民法改正の影響を考察するための民法、借地借家法関連図書などの購入を行いたい。
|
Research Products
(2 results)