2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01351
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
内山 衛次 関西学院大学, 法学部, 教授 (80203553)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 強制執行 / 執行債務者保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は8月19日から8月24日までドイツのボン大学民事訴訟法研究所に行き、所長のブリンクマン教授のご厚意で研究所内にあるドイツの給料債権の差押えに関する資料を収集した。また、同研究所で元所長であるボン大学名誉教授のガウル先生にお会いし、先生から、ドイツの給料債権の差押制限を規定する民事訴訟法850条iが一部改正され、給料以外の債務者の所得の保護も含む規定となり、フリーターやユーチューバー等も被用者と同様に保護される可能性が生じたことから、この点についても研究するようとのご教示を得た。またこれに関する文献を紹介された。その文献の一つであるMeller-Hannich「 Der soziale Pfandungsschutz bei Geldforderungen」(ZZP 130,303)を読み、研究課題のさらなる発展につながるものとして大いに役立った。 研究課題については、ドイツの給料債権の差押制度の内容およびその問題点について研究しており、Hintzen「Forderungspfandung」(2017)などの文献を読んだ。ドイツの給料債権の差押制限の規定はわが国とは異なり、かなり詳細な規定となってはいるが、それでも判例や学説が対立している点は少なからずあり、ドイツ法との比較においてわが国の法制度を研究するうえで多くの示唆を得た。 研究課題との関連では、「債務者の財産状況の調査」(上原敏夫他編「民事執行・保全法判例百選[第3版]168頁~169頁、2020/1/30発刊)というテーマでコラムを書いた。民事執行法の一部改正による債務者の財産開示の強化としてのその財産状況の調査は、その反面として債務者を差押えから保護する契機を与えるものであり、強制執行における執行債務者と執行債権者の利益の調整はますます重要になっていることを認識した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は研究課題である「債権執行における執行債務者の差押保護制度の改革」について、ドイツ法の文献収集およびドイツにおける学説・判例の状況についてお話を聞くために、8月にドイツのボン大学民事訴訟法研究所に行き、所長のブリンクマン教授のご厚意で資料を収集し、また元所長のガウル名誉教授から貴重なアドバイスを受けた。これらの資料を読み始めており、またガウル教授のアドバイスにより研究課題はさらに発展している。 さらに、科研費を利用して収集したその他の資料も継続的に読んでおり、それにより研究課題を進めるにあたり必要なドイツ法と日本法の比較の作業もおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、今まで収集した、さらに2020年度も収集予定の資料を読むことでドイツ法の給料債権の差押制限に関する詳細な規定の研究を進めていく。これにより、ドイツ法の規定がわが国とは異なり、きわめて詳細に給料債権の差押制限を規定している状況をしっかりと把握し、そこからわが国の立法化のためにどのようなことを受け取ることができるのか、受け取るべきなのかを検討する。 具体的には、一般債権者による給料債権の差押えに対する保護規定の策定に関してどのような問題があるのか、また、扶養債権者による差押えに関してはどのように考えるべきか、さらに、給料が債務者の口座に振り込まれたときのその口座の預金債権の差押制限も給料債権の差押保護の中で考察することになるが、ドイツの規定(民事執行法850条k)が給料だけが振り込まれる口座の保護ではなく、その他の原因で口座に振り込まれて預金債権となった場合も保護することから、立法化にあたりどのような問題があるのかを研究していく予定である。 なお、2019年の民事執行法の改正は、執行債権者のための財産開示制度の強化を図ったものの、執行債務者のための改正は給料債権の取立てまでの期間が1週間から4週間に延長されたにすぎず、抜本的な改革は見送られた。私は、新たな立法化による執行債務者保護は必要であると考えており、新たな立法提案についての研究を今後も進めていく。
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Causes of Carryover |
当該年度で購入予定のドイツ法の文献のうち発行時期が遅れた文献があったことから未使用額が発生した。これについては次年度における文献購入に充てる。なお、購入予定の文献は研究課題の進行のために必要となるドイツ法との比較検討をするためのものである。
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