2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K01351
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
内山 衛次 関西学院大学, 法学部, 教授 (80203553)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 給料債権の差押制限 / 執行債務者の保護 / 預金債権の差押制限 / 差押禁止最小限度額 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、わが国において給料債権の差押禁止最小限度額を導入する際の問題点の一つとされる第三債務者である使用者の調査義務について、ドイツ強制執行法の著名な研究者であるWolf-Dietrich Walker教授(ドイツギーセン大学法学部)のオンライン講演会(「ドイツ強制執行法における効果的な権利保護」2020年立命館大学法学部客員教授講演会:2020年11月30日)にてコメンテーターとして質問する機会を得ることができた。教授によれば、使用者は債務者の扶養義務の調査において計算間違いによる債権者への過払いというリスクを負っているとする。これに対して私は、使用者は調査にあたり手元の資料を利用し、債務者に質問すれば義務は果たされ、供託することによって大きなリスクは存在しないのではないかと質問した。教授は、たしかに供託することは一つの重要なアイディアではあるが、広く認められている訳ではなく、現在でも使用者には過払いのリスクを負っているなどと答えられた。使用者の負担軽減は、わが国においても差押禁止最小限度額を導入するにあたり重要な問題点であり、これについてドイツの判例および学説をさらに検討する必要があることをあらためて知ることができた。 また、令和2年度は、Udo Hintzen, Forderungspfaendung, 5.Aufl.,2019.を読んで、ドイツの労働所得の差押えにおいて、債務者の扶養権者が自己の所得を有する場合に債務者の労働所得の差押禁止部分を制限しうるとするドイツ民事訴訟法850条c第4項の判例の見解を詳細に知ることができた。ドイツ連邦通常裁判所(BGH)は、従来から、扶養権者の収入がドイツ民事訴訟法850条c第1項が規定する差押禁止最小限度額を超える額であるかという形式的な基準ではなく、個別事例における事情も判断すべきとしており、わが国においても参考になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題である「債権執行における執行債務者の差押保護制度の改革」の中心となる債務者の給料債権の差押禁止最小限度額の導入において、債務者の世帯に収入のある者が複数存在する場合に債務者の保護が必要以上に大きくなることが問題となるが、この問題を検討するにあたり参考となるドイツ民事訴訟法850条c第4項についての学説・判例がきわめて多く、その分析がまだ十分に進んでいないこと、また、第三債務者である使用者に差押禁止範囲を算定させるにあたり過重な負担をかけるべきではないが、使用者の負担軽減をどのように図るべきかについてドイツ法をさらに検討する必要があること、さらに、債務者が比較的少ない額の給料を複数の勤務先から得ている場合に、それぞれの給料から差押禁止部分が発生することで必要以上の保護を受けてしまうことを回避するため、ドイツ民事訴訟法850条e第2号は給料の合算を規定するが、その解釈についてさらに研究する必要があることなどが理由である。 また、債務者の給料が債務者の預金口座に振り込まれた場合の預金債権の差押制限については、なお多くの資料を集めて研究する必要があることも理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の中心をなす「債務者の給料債権の差押禁止最小限度額の導入」に向けて、その課題である、使用者による差押禁止範囲算定における負担の軽減、債務者の扶養権者が自己の収入をもつ場合の差押可能範囲の算定方法、そして債務者が比較的少ない額の複数の給料を取得する場合の処理について、ドイツの学説および判例をさらに検討していく。また、執行債権が扶養債権である場合の給料債権の差押制限についても、それについての特則をもつドイツ法(ドイツ民事訴訟法850条d)を参考にして、わが国ではどのような規定を設定すべきであるかについて研究を行う。 なお、ドイツにおける社会給付請求権の差押可能性(ドイツ社会法典第1編53条および54条など)についても考察する予定である。 今後は、まず最初に「執行債務者の給料債権の保護」というタイトルで給料債権自体の差押保護について論文にまとめたい。その後、給料が債務者の預金口座に振り込まれて預金債権となった場合の預金債権の保護について、詳細な規定をもつドイツ法(ドイツ民事訴訟法850条k)をさらに検討して、論文にまとめることにしたい。
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Causes of Carryover |
研究課題の遂行に必要なドイツ強制執行法のいくつかの文献の出版が遅れたことが原因である。未使用額は、これらの文献を購入する費用に充てる。
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