2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01351
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
内山 衛次 関西学院大学, 法学部, 教授 (80203553)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 給料債権の差押制限 / 執行債務者の保護 / 差押禁止最小限度額 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、わが国において給料債権の差押禁止最小限度額を導入する際の以下の問題点についてドイツ法を参考にしてさらに研究を進めた。 差押えが禁止される最小限度額が債務者の給料の額およびその扶養家族の人数に応じて決定されるとすれば、債務者の扶養権者が自らの生活費に充てることができる所得を有し、これにより自らの需要がすでに充足されるのであれば、債務者の負担は軽減され、その限りで債務者の給料を自らに残す必要はない。所得を有する扶養権者が給料債権の差押禁止部分の算定において斟酌されることは不公正な結果をもたらす。この問題の解のために、ドイツ民事訴訟法850条c第6項は「執行裁判所は、債権者の申立てに基づいて、衡平な裁量に従い、労働所得のうち差し押さえることができない部分の計算において、この者を全部又は一部斟酌しない旨を定めることができる」と規定する。私は、この規定およびこれに関するドイツの判例および学説を詳細に検討し、わが国では、民事執行法153条により、債権者は特定の扶養権者の差押禁止最小限度額の全部または一部(%など割合による明示も可能)について、給料債権の4分の1に相当する部分を超えない限りで、差押命令の発令を申し立てることができること、またこの裁判における手続上の問題も解釈により解決できることが分かった。 次に、債務者が比較的少ない額の給料を複数の勤務先から得るときは、個々の給料につき差押禁止部分が発生し、必要以上の保護を受ける。そこでそれらを合算し、そこから算定される給料債権の差押禁止額を債務者に確保させることが必要となる。ドイツ民事訴訟法850条e第2号は合算を規定するが、わが国では民執法153条により対応が可能なこと、さらにドイツの議論を詳細に検討し、合算の手続上の問題も解釈により解決可能であると考えるに至った。 なお、研究の成果は令和4年度中に論文にて公表する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題である「債権執行における執行債務者の差押保護制度の改革」の中心となる債務者の給料債権の差押禁止最小限度額の導入については、ドイツ法の議論を参考にして研究はかなり進んでおり、令和4年度中に論文として公表する。 しかし、債務者の給料が債務者の預金口座に振り込まれた場合の預金債権の差押制限については研究がやや遅れている。その理由は、私は、以前に、2010年7月1日に施行されたドイツ民事訴訟法旧850条kの「差押禁止口座」制度を参考にして、わが国における新しい規定の骨子を提案し(「債権執行における執行債務者の保護」シンポジウム「強制執行法制の改正問題 報告Ⅱ」民事訴訟雑誌65号[2019]113頁以下)、その後もこの規定についての学説および判例を参考にして研究をすすめてきたが、ドイツ民事訴訟法が2020年11月22日の「差押禁止口座の法の継続的発展に関する及び差押保護の諸規定の変更に関する法律」により改正され、2021年8月1日から差押禁止口座の規定が変更され、これにより従来のドイツ民事訴訟法850条kおよび同法850条lが全部改正されただけでなく、新たにドイツ民事訴訟法899条から同法910条において差押禁止口座に関する規定が設けられたことによる。現在は、この新規定に関する文献等を収集して検討を始めており、旧規定と比較をしながら今後さらに研究を進める。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究課題の中心となる債務者の給料債権の差押禁止最小限度額の導入については、ドイツ法の議論を参考にして研究はかなり進んでおり、令和4年度中には論文にまとめて公表する。なお、2020年11月22日のドイツの「差押禁止口座の法の継続的発展に関する及び差押保護の諸規定の変更に関する法律」は、差押禁止口座に関する規定だけでなく、給料債権の差押禁止最小限度額についての規定であるドイツ民事訴訟法850条cも改正しており(2021年8月1日施行)、論文として公表する際にはこの改正理由を含めて検討を行う。 また、ドイツ民事訴訟法に新たに規定された差押禁止口座の制度については、今後、ドイツ民事訴訟法の基本書およびこの制度を論じる多くの文献を収集して新制度を検討し、それらを参考にしてわが国における給料が振り込まれた預金口座の差押制限について研究をすすめていく。 研究課題である「債権執行における執行債務者の差押保護制度の改革」は、立法化を含めた差押禁止最小限度額の導入および預金口座の差押制限を対象とするが、これを進めてい行くうえで、執行債務者の報知義務規定の設定など新たな規定を民事執行法において設ける必要があると考えており、今後はこの点についてもさらに検討していく。
|
Causes of Carryover |
私は、研究課題の遂行にドイツ民事訴訟法の規定を参考にしているが、参考にしている規定の一部が2021年に改正され、それによりドイツの強制執行に関する文献の出版が遅れたことによる。未使用額はこれらの文献の購入に充てる。
|