2019 Fiscal Year Research-status Report
情報社会における人格権の保護と情報財の流通に関する私法的規律
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18K01361
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
栗田 昌裕 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (30609863)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 情報法 / ブロッキング / 物権的請求権 / AI / 著作権 / 発明者名誉権 / 著作者人格権 / 人格権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の問題関心は、民法学の視点から情報の法的規律の私法的側面を体系的に検討し、将来の課題について適切な権利利益の衡量を行う基礎的な理論を構築することにある。このことから、昨年度に引き続き、人工知能技術の発達と普及が社会に与える影響と伝統的な法理論との関係について論究を進め、工学部との学際的研究に従事した。その一部は、非法律系の学会誌である日本ロボット学会誌での公表の機会を得た。また、情報の私的独占を認める権利である著作権については、いわゆる防弾ホスティングやCDN(content delivery network)等を利用することによって発信者(侵害者)の追跡を極めて困難にし、権利行使を妨げる事例が社会問題となっている。これに対応するための法制度としていわゆるブロッキング(ISP〔internet service provider〕に対する差止請求)が考えられるが、我が国では憲法上の通信の秘密を侵害するなどの懸念が強く、議論が停滞している。そこで、本研究では、EU法を素材としてブロッキングと憲法上の権利及び物権的請求権との関係を沿革的に検討し、その正当化根拠と限界を探った。また、情報の流通によって侵害される権利としては、名誉やプライバシー等の人格権が考えられるが、これは発明者名誉権等の知的財産法上の権利とも密接に関連している。そこで、特許権と発明者名誉権との関係が問題となった傾斜測定装置事件等の基礎的な評釈を行った。そのほか、情報法の私法的側面に関する知見を体系化し、債務法改正や数次の著作権法改正等の近時の法改正と社会の変化に対応するために、体系書の改版作業に従事し、媒介者責任、名誉毀損・プライバシー、著作権侵害、電子商取引と消費者の保護の各章を大幅に改稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
情報に対する権利を体系化し、その侵害に対する救済方法を検討するとともに、情報財の円滑な流通との調和を図るという所期の目的との関係において、人工知能技術の発達と普及やブロッキングを巡る議論の進展と停滞といった社会の変化に応じた修正を加えつつ、分野横断的な研究の基礎を形成しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
憲法上の権利及び民法上の物権的請求権とブロッキングとの関係については、すでに研究成果を公表しているところであるが、より体系的な検討と共に研究成果の公表を準備したい。また、人工知能技術の発展と普及とが既存の民事責任法に及ぼす影響については、社会実装が進む自動運転車の事例を素材として検討を進めているところではあるが、近時、EUを中心として、Expert Group on Liability and New Technologies - New Technologies Formation, Liability for Artificial Intelligence and other emerging digital technologies, 2019; European Commission, White Paper on Artificial Intelligence - a European Approach to excellence and trust (2020); Consultation on the white paper on AI ? a European approach, Google’s submission (2020)等の研究調査成果の公表等が相次いでおり、これらを参照した上での総合的な研究成果の公表を予定している。そのほか、プライバシーの権利に関わる応用的な問題として、プラットフォーマーに対する個人情報の保護について検討したい。
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Research Products
(5 results)