2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01362
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西内 康人 京都大学, 法学研究科, 准教授 (40437182)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 組合 / 団体 / 代理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は団体の契約的性質にともない、どのような法的効果が導かれるべきかを代理を中心として研究するものである。 西内康人「民法学のあゆみ 谷川和幸『共同著作物と共有著作権(1)~(5・完)』」法律時報92巻3号113-117頁において、広い意味での団体と関係する共有著作権の解釈論を示した論文の評釈を行った。そこでは、民法ではあまり対象とならない準共有の特殊問題を扱うとともに、民法ではあまり使われない経済分析の論拠が使われているとの特徴があり、これが民法の団体法に対して持つ影響を分析した。その結果として、対象とした論稿では、共有認識禁反言テーゼに見られるように、①合意が持つ投資保護と投資促進の機能に注目し、投資により成立する②共有的権利に関する権限分配と結び付けた点に、大きな意味があることを明らかにした。 すなわち、一方で、これまでの民法学の議論では、①と②がバラバラに議論される傾向があった。たとえば、①については、関係特殊投資とその保護に関係した論考が存在しているところである 。また、②については、共有に関する原則とその変形につき、合有や総有といった共有者間の人的関係による説明、あるいは、互有など共有物の特性による説明が、それぞれ存在するところである。また、②については、共有の成立原因として、相続と区分所有のそれぞれを典型とするものがあり、共有法にはこのそれぞれに関係する効果が混じって規定されていることを明らかにする論考があった 。他方、本論考は①が②に影響することを明確にした点に特徴を持っている(この結果、たとえば、共有関係や組合などの団体関係の成立と切り離して、多数決条項など後発的になされる他者の意思決定に拘束される条項を合意できるか、という問題 などにつき、関係特殊投資の有無への注目といった解答の方向性を与えることに資するかもしれない)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は団体の契約的性質にともない、どのような法的効果が導かれるべきかを代理を中心として研究するものである。 その中心的な研究成果として、『新注釈民法(15)』(有斐閣)(の分担執筆(組合部分)、『Law Practice 民法Ⅰ』(弘文堂)の分担執筆(組合部分)をすでに終わらせており、研究課題の中心的部分に対しては一定の回答を示している。具体的に、業務執行組合員がいる代理行為を行った場合の、問題処理の複層性を念頭に、組合員が業務執行者となる場合には、業務執行者として代理権が発生する可能性(業務執行者の定義のあいまいさの問題、代理権の内部的制限の問題)と、組合員として代理権が発生する可能性(任意代理・法定代理のいずれに近づけるかとの問題)を考察した。また、団体が契約に基づくという観点を下支えするために、平成29年民法改正で追加された民法667条の2、667条の3が持つ契約法全体との関連性を明らかにした(これらの規定では組合への契約法総則を排除しているが、この点は組合契約の特性への違反や組合法で特則が置かれていることに求められること、翻って言えば、こうした特性への違反や特則の存在がない部分では契約法総則の適用を排除する必要がないことを明らかにした)。 以上の成果をもとに、さらに団体法や契約法との関連での副次的な問題についても明らかにすることに取り組んでいる。具体的に、団体法との関係では広い意味での団体と関係する共有著作権の解釈論を示した論文の評釈を行った。また、改正前民法では動機錯誤となることを前提に議論されていた特定物売買の性質錯誤が、改正法ではどのように扱われるのか(表示錯誤(民法95条1項1号)か、それとも、事実錯誤(同2号)か)、という疑問を扱った。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は団体の契約的性質にともない、どのような法的効果が導かれるべきかを代理を中心として研究するものであるが、研究課題に対する中心的な問題については一定の回答を示すなど順調に研究が進んでいる状況にある。 そのため、本年度は前年度に引き続いて、団体法や契約法と関連した副次的問題の解明にも取り組むつもりである。特に、これまでは手薄であった契約法を支える思想の部分に踏み込んだ研究を行う予定である。具体的に、契約法の解釈論・立法論がいわゆる法の経済分析の影響を受けて変容する可能性を示すため、消費者信用法制に関する行動経済学の観点からの評価に関する論文を執筆・公刊することを予定している。また、「法と経済学会」のシンポジウムにおいて、消費者法一般に対して行動経済学がどのような影響を与えているのか、また、与える可能性があるのかという点について、研究報告を行うことを予定している(ただし、このシンポジウムの成果をまとめた論文を近い時期に公刊するか否かについては、現在のところ未定である)。さらに、契約法全体を貫く思想的基礎とかかわる公序良俗につき、コンメンタールの分担執筆を引き受けており、この校正作業を進めている。 さらに、研究課題である組合法とより密接に関連した課題として、構成員や財産が単一であったとしても、つまりは、人や物の「集合」と言えなくてもなお組合契約が成立・存続する可能性があるかの理論的考察を行うつもりである。この点は同様の問題が議論されている比較法が参考になると考えており、ドイツ法の文献調査を中心にして成果を出すことを予定している。そして、この研究成果についても本年度中に公刊することを目指して作業を進めている。 ただし、本年度予定していた研究会での報告は、現在問題となっている感染症の広がり次第では困難となることが予想される。その代わりとして、Web会議ツールの活用も考える。
|
Causes of Carryover |
今年度は、2020年初頭からコロナウイルス感染症の拡大により、すでに確定していた旅費の執行が困難となった。具体的に、動産・債権に関する担保法制の立法的課題を検討する研究会が東京で予定されており、このために本科研費からも旅費を支出する予定であったが、この開催が直前になって中止され、このため旅費として支出予定だった部分について残額が生じる事態を余儀なくされた。 また、このために生じた残額を本研究のための別用途で支出することも、困難が生じた。これは、次の二点によるものである。第一に、上記のように残額が生じる原因となった事態が、年度の最後にかかるものであったことである。このため、他の支出への振り替えが客観的に困難であった。これとともに、研究費受入れ機関である京都大学の年度単位での会計処理の都合上、年度末に残額が生じる事態については、この振り替えにあたる支出に困難が生じた。第二に、上記コロナウイルス感染症への対応として、支出が難しくなったことである。すなわち、コロナウイルス感染症への対応として、本来生じる必要のない教育・事務負担が、研究代表者に生じることになった。また、研究費の不正支出を防ぐための枠組みとして設けられている検収にも困難が生じた。 次年度は、このような状況を踏まえ、旅費のようにコロナウイルス感染症の影響を受けず、また、検収負担の少ない、書籍等の購入費として支出する予定である。
|
Research Products
(2 results)