2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K01366
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小池 泰 九州大学, 法学研究院, 教授 (00309486)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 扶養 / 学費 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、成年年齢の引下げを実現した民法改正に伴い、高校を卒業した未成年子及び大学等在学中の成年子から親に対する扶養請求に関する裁判例と学説の調査を行った。 近時、扶養に関する裁判例の公表が増えている。これは、(離婚後の片親家庭の子を含む)子どもの貧困問題を背景とする一方、成年年齢が18歳に引き下げられること(改正法は2022年4月1日施行)により、高等教育に係る学費をめぐる親子の紛争が前倒し的に争われているものともいえる。本年度は、とりわけこのタイプの紛争の裁判例とこれに関する従前の学説の議論を調査し、紛争の性格を分析した。そして、学費の負担については、民法上は父母間・親子間の負担の問題となるものの、教育の機会保障ひいては貧困の再生産の回避のためには、公的な支援制度の拡充(奨学金や無償化)及びこれと扶養法との協働の可能性を探る必要があることが判明した。 以上と合わせて、877条1項の扶養義務の法的性質、扶養義務の当事者(成年子に対する親の扶養義務、老親に対する成年子の扶養義務)に関する従来の学説の議論と論点を検討し、私法(民法)の扶養義務と社会保障法による生活保障とでそれぞれの機能すべき領域をいかに画定すべきかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、扶養法の現代化のための理論的検討を行うものである。 扶養法については、従来、裁判例は必ずしも多くなく、また、理論的関心も低くなる一方であった。ところが、成年年齢の引下げにより、にわかに扶養法への実務的・理論的な関心が高まりつつある。とりわけ、子の高等教育費用をだれが負担すべきか、という論点が、この関心の焦点となっている。2018年度は、この点についての裁判例と学説について調査を行い、問題の性質を精密に分析し、ここでも社会学・社会法との横断的検討が必要であることが明確になった。すなわち、貧困の再生産を防止するために教育機会を保障することが不可欠であること、また、学費の支援については無料化・奨学金制度(高等教育ではないが就学支援制度)などの扶養法以外の選択肢も考慮しつつ、扶養法の役割を検討する必要があること、である。具体的かつ喫緊の論点を手掛かりに、理論的な分析の手がかりを得られた点で、課題への取組はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、子の扶養の主要論点のうち、子の高等教育費用の問題を扱った。2019年度は、さらに、未成熟子(日常的な身上監護を要する年齢の子。中学・高校生程度までを想定している)に対する扶養について、2000年代の養育費確保政策及び子育て支援政策を含めて包括的に検討し、子に対する扶養の問題に対する総括を行う。同時に、老親に対する扶養の問題についても判例・文献の調査を行い、相続法ひいては財産法(信託法含む)を含めた包括的な視野から分析するための手がかりを得ることとする。
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Causes of Carryover |
少額の残金であり、次年度に繰り越して使用するのが有益と考えられたため。
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