2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K01366
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小池 泰 九州大学, 法学研究院, 教授 (00309486)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 扶養義務 / 嫡出否認 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、本研究課題との関係で立法上の重要な動きがあった。すなわち、2019(令和元)年7月、『嫡出推定制度を中心とした親子法制の在り方に関する研究会報告書』が公表された。その中では、嫡出否認が奏功した場合、それまで法律上の父として子を養育していた者に既払いの養育費用に係る請求権を認めるべきかが論点として挙げられている(26頁)。そして、この研究会を受け、同月29日には法制審議会民法(親子法制)部会の第1回会議が開催されている。その部会資料4では、「否認前に子の養育のために支出した費用の償還に関する規律の要否」が取り上げられている。 本年度は、これらの立法の動きを追跡しつつ、扶養義務の法的性質とそれが問題となる文脈(とりわけ嫡出否認制度改革の文脈)での意義を検討した。具体的には、既存の親子関係が遡及的に覆された場合に、それまで法的な親であった者は、その地位に基づいてなした養育に係る負担相当額を、子または他の親に対して請求できるか、という問題である。日本の扶養法が法律関係として十分に分析されていなかったこともあり、今回の親子法改正でもこの点に対する配慮は小さいようにみえる。事実、前掲資料でも、否認権行使の阻害要因となる点のみから、このような請求を封じる規律を置くことを議論している。しかし、このような利益衡量は一面的である。この点は、その反対の極に「扶養求償等の複雑な法律問題が生じるのを防ぐため、子・母の否認権を認めない」とする立場を置いてみれば明らかである。手続法(執行法)で扶養義務を強化する方向の議論が進められている点に鑑みても、扶養法に内在的な論理を構築して、扶養求償の問題ひいては親子法制の立法課題を検討する必要があるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
扶養法の現代化を検討する本研究の意義は、単に理論面だけではなく、現実の立法課題と深く関連するものである。当初は、理論的分析を法学分野以外の視野にも広げて包括的に展開する予定であった。しかし、成年年齢の引下げによる成年子に対する扶養義務(高等教育過程にある子の養育費用)・嫡出否認権の拡張と扶養求償といった、民法学内部の立法課題が登場し、これに応じて研究の力点も各論を中心にせざるを得なくなっている。 本年度は、代表者が本研究を開始する契機となった「否認改革と扶養求償」の論点を改めて見直すこととなった。とりわけ、親子法制の改正論議では、この論点の重要性が過小評価されているようにみえる。これは扶養法が法解釈論の中でも突き詰められていないことに起因している。不当利得法(扶養に係る求償利得)・不法行為法(不貞に対する賠償範囲論)など、財産法分野の接点で扶養問題は生じていたにもかかわらず、この点の分析は不十分であった。本年度はこの点を中心に、また、否認制度改革の文脈の中でのこの論点の意義を中心に検討を進めた。嫡出否認権の拡張に関しては、とりわけ子が一定の年齢に達してから後に自ら否認権を行使する場合、扶養求償問題は回避できないし、また回避すべきでもないものである。そして、この問題は、たんに求償等の請求権を封じる規律を置けば解決できるものでもない。そもそも、日本法上、そのような規律だけが置かれるのは、他の規定の規律対象・範囲に鑑みて、異質なものとなる。むしろ、扶養法に内在的な分析を深め、それと財産法との関係を総合的に検討する必要があるといえる。 以上が本年度の研究によって判明したことである。
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Strategy for Future Research Activity |
2020(令和2)年度は、本年度の積み残し課題である未成熟子に対する扶養の問題(その一部は本年度の嫡出否認問題で検討した)を中心に、扶養義務の法的性質と財産法との接点にある諸論点の解明を進める。また、親子法制改革における扶養求償の問題に関する議論も注視していく。以上につき、ドイツ法との比較分析も進めていく。
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