2018 Fiscal Year Research-status Report
The Adequate Allocation of Insolvency Risk by Means of Duty of Disclosure of Credit Information on the Collateral Provider
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18K01368
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
小山 泰史 上智大学, 法学研究科, 教授 (00278756)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 所有権留保 / 流動動産譲渡担保 / 弁済による代位 / 登録 / 対抗要件 / 物権変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
信用受信者が実質的に与信を受ける際に、売主からの所有権留保の用に、日本民法上物権変動を生じない場合には、そもそも権利変動がない以上、留保所有権の公示を必要としないのが判例の見解である。他方、信販会社が留保買主に与信する事例では、いったん留保売主名義の登録がなされれば、その後信販会社が代位弁済しても、その登録名義の変更なしに、留保買主の倒産手続で信販会社は別除権の行使をすることができる。 近時、最判平成29・12・7民集71巻10号1925頁は、その理由として「購入者の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車については,所有権が留保されていることは予測し得るというべきであるから,留保所有権の存在を前提として破産財団が構成されることによって,破産債権者に対する不測の影響が生ずることはない」としている。このような論理の下では、登録名義が権利関係の調査の端緒としては機能しないことを認めることになってしまう。 また、最判平成30・12・7金法2105号6頁は、売主・買主の二当事者間の所有権留保と流動動産譲渡担保の競合の事案について、前者を優先する判断を示した。後者が動産譲渡登記を経由して公示を備えているのに対し、前者については権利変動がないから公示を要しないとする。しかし、このような判断は、権利の公示を予審関係の調査の契機としては機能させないことになる。 申請者は、以上の2件の判決について判例評釈を公表し(最判平成29・12・7につき、金判1548号16頁(2018年)、また公表を予定している(最判平成30・12・7につき、論究ジュリスト2019年春号掲載予定)。これらの拙稿において、両判決の判例法理における位置づけを検討し、もって研究課題についての研究の基礎を構築しようと努めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、与信関係に新たに入ろうとする者に対して、信用を与えられる者(信用受信者)等に自己の債務状況の開示義務等を課すこと、すなわち、取引に入ろうとする者からの開示請求権を肯定することで、新たに与信を行おうとする者や担保の提供を行おうとする者にとっての、取引に伴うリスクを合理的に計算する手法を開発しようとするものである。しかし、【研究実績の概要】で上げた2件の最高裁判決は、与信情報の開示義務の前提をなす、権利の公示手段の機能を減殺する点に問題を孕む。 本来であれば、初年度より比較法的な考察として、カナダ法のPersonal Property Security Actやオーストラリア・ニュージーランドのPersonal Properties Securities Actにおけるファイリング制度を検討を開始するところであったが、年度当初に現れた日本法の新たな判例の検討に時間を割く必要が生じた。そこで、まず新たな検討事項を優先して研究に取り組んだ次第である。これらの新たな課題については、公表もしくは公表予定の原稿において、一定の知見を得たといえる。特に、最判平成30・12・7の検討の過程で、当該判決の二当事者間の所有権留保を前提とした最高裁の説示が、最判平成29・12・7のような三当事者間の所有権留保においてどのような意味を持つかについて、詳論することができた。すなわち、所有権留保といっても、信販会社が、譲渡担保設定者である留保買主に対して与信する実態は、流動動産譲渡担保による競合債権者の融資ときわめて類似する利益状況にあり、実質的には金銭信用同士の優劣が争われていることを明らかにし、信販会社の優先の根拠は、譲渡担保設定者である留保買主の生産活動に密接に関連づけられていることに理由があることを指摘した。
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Strategy for Future Research Activity |
日本法における上記の新たな判例法理の展開を前提として一部研究計画を修正し、アメリカ法統一商事法典(UCC)第9編、およびそれを継受したカナダ法のPersonal Property Security Act(PPSA)、さらにカナダ法を継受したニュージーランド・オーストラリアのPersonal Property Securities Act(PPSA)の購入代金担保権(purchase money security interest,PMSI)について、特に第三者与信型PMSIの倒産手続における効力を検討する必要がある。 アメリカのUCC第9編の2000年改正以前、複数の物品のPMSIを被担保債権を相互に担保することとした場合に、それらの担保権がPMSIとしての地位を失い、倒産手続において否認されるかどうか、という問題が生じていた。その問題状況は、まさに日本法の所有権留保をめぐる裁判例の展開に類似するものであり、アメリカ法からカナダ法、ニュージーランド・オーストラリアの各法における問題状況の変遷を追うことは、本研究にとって重要な意味を持つと考えられる。とりわけ、アメリカUCC第9編では、一部の自動車については、日本の軽自動車と同じく登録(ファイリング)の対象となっておらず、登録を調査の契機として情報開示を図る制度の例外となっている点は、本研究において、公示を契機として取引に新規参入する者への情報開示を考える上で、日本法の議論にも参考になると考えられる。 可能であれば、ニュージーランド・オーストラリアについては、現地調査の機会を設けて、現地の行政担当者や研究者に対してインタビュー調査をするなどの、実態調査を加えながら、よりいっそうの研究の深化を進めていこうと考えている。
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Causes of Carryover |
年度末の出張経費等の計算上、完全に執行額をゼロとすることができなかった。残額は6000円未満と少額であり、当初の研究計画による支出の予定から大きくずれを生じたわけではない。よって、2019年度に残額を繰り越したとしても、それほど大きな影響は考えられない。
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