2019 Fiscal Year Research-status Report
The Adequate Allocation of Insolvency Risk by Means of Duty of Disclosure of Credit Information on the Collateral Provider
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18K01368
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
小山 泰史 上智大学, 法学部, 教授 (00278756)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カナダ法 / 動産・債権担保 / PPSA / 動産・債権担保法制 / 在庫品担保 / 債権譲渡担保 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究成果として、「判例詳解(Number 25)在庫商品を目的とする所有権留保と流動動産譲渡担保の競合[最高裁平成30.12.7判決] 」(論究ジュリスト29号170―178頁)を公表した。かつて最判昭和62・11・10(民集41巻8号1559頁)は、「第1ないし第4倉庫内及び同敷地・ヤード内」の「普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品」といういわゆる「全部譲渡方式」によって集合物に特定性を認め、その倉庫内に商品を引き渡した動産売主による動産売買先取特権に基づく競売を認めなかった(譲渡担保権者に第三者異議の訴えを肯定)。同判決は、民法333条の「引渡し」には占有改定を含むため(大判大正6・7・26民録23輯1203頁)、特定動産譲渡担保の場合と同様、流動動産の譲渡担保権者は同条の第三取得者として引渡しを受けることになる結果(両者の競合は民法333条により規律される)、売主は、動産売買先取特権を行使できないとの結論に至った。そこで、売主としては、買主である譲渡担保設定者との間で、その商品供給契約中に所有権留保の特約を入れることで、自衛策を講じることを考えることになる。本稿は、近時登場した最高裁平成30・12・7がこの問題を検討しているため、当該判決の射程について詳論したものである。 また、2020年1月26日から2月1日までの間、カナダのトロントとモントリオールに調査に出向き、カナダ動産・債権担保制度上、利害関係者から担保権者に対する情報開示請求制度が果たす機能等について、トロント大学のAnthony Duggan教授や、McGill大学のCatherine Walsh教授らにインタビュー調査を行った。その成果は、2020年度中に活字にして公表することを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、2018年度において最判平成29・12・7(民集71巻10号1925頁)について判例評釈を公表した。同判決は、その理由づけとして「購入者の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車に ついては,所有権が留保されていることは予測し得るというべきであるから,留保所有権の存在を前提として破産財団が構成されることによって,破産債権者に 対する不測の影響が生ずることはない」としている。このような論理の下では、登録名義が権利関係の調査の端緒としては機能しないことを認めることになって しまう。 また、「研究実績の概要」で取り上げた最判平成30・12・7民集72巻6号1044頁は、売主・買主の二当事者間の所有権留保と流動動産譲渡担保の競合の事案について、前者を優先する判断を示した。後者が動産譲渡登記を経由して公示を備えているのに対し、前者については権利変動がないから公示を要しないとする。しかし、このような判断は、権利の公示を与信関係の調査の契機としては機能させないことになる。前掲の論究ジュリストの原稿においては、この 2つの判例の傾向の間に矛盾があるのではないかについて詳論した。こうして、2018年度と2019年度の2年間において、密接な関係を有する2件の最高裁判決を検討することができた。 加えて、カナダにおいて実施したインタビュー調査においては、特にCatherine Walsh教授から、ケベック州1991年民法典における所有権留保に関する規律が、他のカナダのコモンローを母法とする州の立法(Personal Property Security Act,PPSAと略称される)と異なり、新盤会社が所有権留保をする類型を承認していないという知見を得ることができた。その新たな知見は、比較法的に見て非常に重要な示唆を含むものである。
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Strategy for Future Research Activity |
法務省関係の研究会である動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会(座長 道垣内弘人〔前東京大学・現専修大学〕)が商事法務研究会に設置され、立法に向けての検討が積み重ねられてきた。2021年の2月には、法制審議会に対して諮問がされるとのことである。この研究会が扱っている範囲は、非常に幅広く、また、事務局側からは、これまでの規律を大きく改める提案もされており、法制審議会に対して諮問がされた後は、急ピッチで立法まで進むことが予想される。 本研究の一環として、本年の法律時報10月号において「動産・債権等を目的とする担保――立法に向けての課題――」という特集を組むことが企画され、「所有権留保・ファイナンスリース〔仮題〕」の項目について執筆依頼を受けている。2019年に論究ジュリストで公表した研究においても、流動動産譲渡担保の設定されている在庫品担保に、所有権留保が付された商品が倉庫に納入されても、譲渡担保設定者に所有権が移転しないため(物権変動が生じないため)、留保売主が勝つ、という結論を採っていることを紹介した。しかし、信販会社が融資をする場合には留保所有権が信販会社へ移転することを示唆する最高裁判決(最判平成22・6・4(民集64巻4号1107頁))も存在する。所有権留保が担保目的であれば、買主への物権変動を観念する余地があるのではないか、と指摘もなされている。ジュリストの原稿では十分な検討ができなかった部分もあり、法律時報の原稿で改めて検討を試みる。 また、すでに述べたように、カナダでの調査の成果をまとめて、上智大学の紀要に公表することを計画している。主たる研究対象はカナダ法であるが、カナダ法の立法を踏襲したオーストラリア法は、カナダ法より詳細な、担保権者に対する利害関係者からの情報開示請求制度が定められており、そちらの内容も併せて紹介する機会を設けたい。
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Causes of Carryover |
2020年1月26日から2月1日にかけて、カナダのトロントとモントリオールに渡航してインタビュー調査を実施した。その際、航空運賃と宿泊費については、手配業者に対して前払いをする必要があり、早期の支出を行う必要があった。また、現地滞在の期間、海外用WiFiルーターをレンタルして、その通信費を科研費から支出した。これらは、予め見積もりをとって支出をしているが、日当などは必ずしも現地の実際の支出額とは一致するものではなく、学内の規定額の支出額にとどまっている。国内旅費の支出も少なくなく、他方で、書籍類や消耗品の支出が多くを占め、微細な残額が生じることは避けられなかった。2019年度の予算額の残額は約20000円あまりにとどまり、概ね当初の計画に沿った態様での支出であったということができる。 なお、これらの残額は、研究の最終年度において追加で必要となった資料等の購入に充てる予定である。
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