2018 Fiscal Year Research-status Report
児童虐待防止のための柔軟な支援と処置-ドイツの新たな児童保護法制を参考にして
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18K01370
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岩志 和一郎 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (70193737)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 児童保護 / 児童虐待 / 少年援助 / 障害者権利条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の3点につき、研究成果を得た。 1 研究代表者は、平成26年度~28年度に科学研究費補助金による助成を受け、「日独の児童虐待対応に関する実証的比較研究―責任共同体としての司法と児童福祉」(基盤研究(B)海外学術調査)という表題で、児童虐待対応に関する研究を実施し、その成果の一部についてはすでに公表済みである。本研究は基本的にその研究を引き継ぎ、さらに発展させるものであることから、本年度前半は同研究の成果全体の出版の作業に当て、10月には『児童福祉と司法の間の子の福祉』(尚学社)を単行本として出版した。
2 上記1に掲げた前研究においては、ドイツのベルリンを地域的対象とした児童虐待対応行ったが、今回の研究ではより別の地域に対象を広げ、2019年3月には、バイエルン州のレーゲンスブルグにおいて、少年局の聞き取り調査を行った。ドイツは連邦制の国であり、児童保護法制の基本法である社会法典第8編のもと、細目は州法に委ねられている。調査の結果、児童保護の行政機関である少年局構造がベルリンとは大きく異なり、活動基準にも相当の差異が認められた。当初計画したミュンヘン市少年局の調査は、先方の都合で実現できなかったが、バイエルン州の基準は各都市共通であるので、その実務的特性を把握できたことは意義深い。
3 前研究が児童虐待という窓口からの研究であったのに対し、本研究は児童保護体制全体を視野に入れている。本年度は、2017年に議会を通過したにもかかわらず施行されない状態となっている「児童並びに少年の強化に関する法律草案」の現状を調査した。2019年3月に実施した研究協力者ベルリン工科大学のミュンダー教授との会談の中で、難民政策や、予算、人員などの側面だけでなく、障害を持つ児童と健常な児童との平等な取り扱いをめぐる議論がネックとなっていることがわかった。新しい知見として有用であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の諸点からみて、おおむね順調に進展していると考える。 1 前研究の成果の出版については、出版事業の現状との関係から遅れ、本年度の作業に食い込んでしまった。しかし、その作業過程では、いくつかの重大児童虐待事件をきっかけに政府が児童相談所の強化や児童虐待防止法の改正、さらには民法の特別養子制度の改正に乗り出したため、出版された書籍の中にそれらの新しい情報を取り込むことになった。 2 概要の部分でも述べたように、本年度はバイエルン州を聞き取り調査の対象とし、ミュンヘン市少年局と聴き取りの約束をしていたが、先方の都合で時期の調整がつかなかった。そのため年度末ではあるがレーゲンスブルグを対象に調査を行った。しかし、同じバイエルン州の少年局として行動基準は同じであるとともに、レーゲンスブルグは少年局の組織を組み替え、より効率的な活動を行っていることがわかった。今後とも大都市であるミュンヘンでの調査を試みたいと考えるが、今回調査ですでに、バイエルンの基本情報は取得できたと考えている。 3 前研究の時から行方を見守ってきた「児童並びに少年の強化に関する法律」がそのままで施行されることはないということが判明した。しかしながら、それはこれまでの改革の議論が無になったということではなく、難民問題や障害者問題という新たな要素が加わったからであるということも明確になったので、これまでの事件の価値を再認識することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究申請時には予測していなかったことであるが、2018年にわが国政府は児童虐待対応のための諸施策を強化する方針を示し、2019年度には、児童虐待防止法や民法の特別養子法規定の改正が実施されることとなった。このような動きの中で、各分野の担当者より研究代表者に対しても知見の確認があり、また著作の紹介も求められた。前研究及び本研究で入手した資料を提供しつつその動きに役立てていきたいと考えている。ただし研究の方向自体は変わることはなく、虐待対応を含めた児童保護対応、特に少年局の機能と活動実態の研究に主点を当てていきたいと考える。本年度は、ベルリンで緊急一時保護の実務担当者に対する聴き取り調査のほか、ミュンヘン市少年局での聴き取りを予定している。また、わが国で取り上げられた養子縁組による対応と関連して、ドイツの他児養育システムの実務の調査も行うことを企図している。
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Causes of Carryover |
当初、2回のドイツ出張を予定していたが、日程的に1回になってしまい、その分の旅費が余ってしまった。次年度にも2回のドイツ出張を計画しており、繰越分については、その分として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)