2020 Fiscal Year Research-status Report
債権法改正が金融実務に与える影響に関する日仏比較法研究
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18K01374
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
白石 大 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (90453985)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 債権法改正 / 金融法務 / フランス法 / 債権譲渡担保 / 担保法改正 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は,①日仏両国における債権法(債務法)改正の研究の一環として,担保目的の債権譲渡に関する両国制度の比較を行い,フランス語で研究成果を公表した。②また,現在,これも日仏両国において担保法の改正作業が同時進行中であるところ,金融実務においては債権法(債務法)と担保法の結びつきが強いため,本課題に関連するものとしてこれについても検討を進めた。 ①の研究成果は次のとおりである。日本の債権譲渡法制は,債権譲渡がなされた事実を可能な限り公示しなければならないという意識が根強く,債権法改正の際も,フランスのダイイ法と類似する公示性のない対抗要件制度が提案されたものの,結局支持を集められなかった。これに対し,フランスではダイイ法の規律をそのまま民法典にも採用し,公示を問題としない債権譲渡制度へと舵を切った。この転換は,債権の二重譲渡が稀であるというフランスに固有の事情によるものであろうが,当初より公示を問題としない法制を採っていたドイツ法に続いて,フランスも同様の制度を採用したという事実は,今後わが国の債権譲渡法制(および債権譲渡担保法制)を考えるうえでも影響を及ぼすことになると思われる。 ②の研究成果は次のとおりである。フランスでは,2006年に担保法の大きな改正が行われたが,保証に関する規律が実質的な改正の対象とされなかったことなど,なおも不十分な点を残すものであった。また,この担保法改正の後にも債務法や倒産法などの改正が続いたため,これらの法改正と担保法制との整合性を確保する必要性も生じていた。そこでフランス司法省は,アンリ・カピタン協会に担保法改正準備草案の起草を付託し,フランス議会は,その成果をもとに,オルドナンス方式での担保法の改正を政府に授権した。②の研究は,まずはこの改正作業の概要を検討・分析したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は,新型コロナウィルス感染症の拡大により,所属研究機関・部局での役職に関する業務量が飛躍的に増大した。また,オンライン授業への対応等により,教育面での業務負担もまた大きく増加した。これらにより,本課題の研究に割くべき時間を十分に確保することができなくなり,研究の進捗に遅れがみられるようになった。 さらに,これも新型コロナウィルス感染症の影響により,本課題で予定していたフランスでの現地調査を2020年度も実施することができなかった。今後,新型コロナウィルス感染症が本課題の遂行に与えうる影響は現時点では見通せないが,2021年度は現地調査以外の方法での調査研究についても検討する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,これまでの本課題の研究をふまえ,相殺や詐害行為取消権などの諸制度についても,日仏両国の債権法(債務法)改正を比較・分析した成果を公表できるようにしたい。研究を進めるにあたっては,新型コロナウィルス感染症の影響を回避するため,オンラインでの調査なども視野に入れたい。 また,本課題は,日仏における法改正が金融実務に与える影響を検討の対象とするところ,日仏両国で同時に進行中の担保法改正作業についても本課題の対象として検討を進めたい。日本では,法制審議会の担保法制部会が2021年4月から開始され,いよいよ立法に向けた作業が本格化しつつあるが,フランスでは,日本に先駆けて,2021年5月に担保法改正のオルドナンスが発令される予定である。本課題でも,これらを研究の素材として日仏両国の担保法制度の比較・分析を行うことにより,日本での法改正の方向性に対する示唆を得たい。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」欄に記したとおり,研究代表者の校務負担・教育負担が増したことに加えて,新型コロナウィルス感染症の影響によりフランスでの現地調査を実施することができなかったため,旅費として予定していた金額が未使用となった。 今後,新型コロナウィルス感染症が本課題の遂行に与えうる影響は現時点では見通せないが,2021年度は可能な限りフランスでの現地調査を実現させたいと考えており,未使用額をこれに充てることを予定している。また,仮に海外現地調査が困難である場合は,文献・資料の収集をさらに進めるためにこれを充当することも考えたい。
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