2018 Fiscal Year Research-status Report
契約不適合に基づく減額請求規定の活用による消費者保護
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18K01382
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
小笠原 奈菜 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (40507612)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 瑕疵担保責任 / 契約不適合 / ドイツ民法 / 消費者保護 / 代金減額 / 情報提供義務 / 説明義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
契約交渉過程において不適切な説明がなされ、当事者が望んだ内容とは異なった内容の契約が成立することがある。この際に、不適切な説明を行なった者の説明義務違反が認められたとしても、損害算定のレベルにおいて、説明の相手方(たとえば消費者)が救済されない事案が多数あるという問題がある。ドイツでは、瑕疵担保責任に基づく代金減額請求の規定を類推適用することにより、消費者等の説明の相手方を救済するという手法が取られている。 本研究は、瑕疵担保責任の減額請求規定を類推適用し、損害を賠償することにより説明の相手方を保護するための理論的基盤を提供することを目的とする。現行民法には瑕疵担保責任に基づく代金減額請求の規定はないが、2017年6月に公布された改正民法では、瑕疵担保責任が契約不適合責任に変更され、効果として代金減額請求が規定された。同種の規定をもつドイツの議論を分析し、日本への導入の可否を検討する必要性が高まったといえる。 本年度は、これまでの研究成果から得られた分析視角に基づき、日本の従来の学説を調査、検討した。学説の検討の際にはその説が拠り所とする諸外国の法理論を確認しつつ検討を進めた。さらに、実務上も従来の理論では、損害賠償レベルでの消費者保護がなされていない領域があることを明らかにするために従来の裁判例の収集及び分析を行なった。実務上の問題を把握することにより、裁判実務および裁判外の交渉において参考となる理論を適切に提示することが可能となる。実務上の問題を把握するためには裁判例として現れない問題も分析する必要があるため、法律相談に関する情報を収集、分析を行なった。情報の収集は適格消費者団体消費者市民ネットとうほくの協力の下で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、これまでの研究成果から得られた分析視角に基づき、日本の従来の学説を調査、検討した。学説の検討の際にはその説が拠り所とする諸外国の法理論を確認しつつ検討を進めた。さらに、実務上も従来の理論では、損害賠償レベルでの消費者保護がなされていない領域があることを明らかにするために従来の裁判例の収集及び分析を行なった。実務上の問題を把握することにより、裁判実務および裁判外の交渉において参考となる理論を適切に提示することが可能となる。実務上の問題を把握するためには裁判例として現れない問題も分析する必要があるため、法律相談に関する情報を収集、分析を行なった。情報の収集は適格消費者団体消費者市民ネットとうほくの協力の下で行った。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、ドイツの学説及び裁判例を調査、検討する。ドイツでは、契約の目的物について不適切な説明がなされた結果、当事者が望まなかった契約が締結された場合の金銭調整として、説明義務違反を根拠として、反対給付の縮減(売買代金の減額など)という金銭調整が行われてきた。具体的な調整額の算定の際に、瑕疵担保責任に基づく減額の規定であるドイツ民法旧472 条の類推適用を用いるべきとする説が主張されている(Canaris,Wandlungen des Schuldvertragsrecht;Tendenzen zu seiner “Materialisierung”,AcP200,273 (2000))。 具体的な規定の適用について、Canarisの主張への評価を中心に2001年の債務法現代化後の変遷に関して、学説を調査、検討する。さらに、裁判例において、説明義務違反の場合の「損害」として何をとらえているのか及び損害の算定基準を、債務法改正前と改正後ともに調査、検討をする。ドイツでは改正により、契約交渉の際の説明義務違反に基づく損害賠償の根拠となる契約締結上の過失責任が、債務関係に基づく義務違反(ドイツ民法280条)とされるという大きな変化があった。日本においても、契約前の義務と契約上の義務の連続性が見られる部分がある。 さらに、ドイツ法の議論を日本法に取り入れるためには、実務上の問題の異同についても把 握する必要があるため、日本法と同様に、裁判例として現れない法律相談に関する情報を収集、分析をする。
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