2020 Fiscal Year Research-status Report
自営創作者のための著作権法試論―フランス法からの示唆
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18K01383
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
長塚 真琴 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (10281875)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス著作権法 / ファッション / デザイン / 著作者人格権 / 相続 / 新聞社 / 著作隣接権 / プラットフォーム |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)2020年度前半は、オンライン授業への対応のため、研究がほとんど進展しなかった。中盤以降は、本研究のテーマと部分的に関係する以下のような研究をおこなった。 (2)中盤には、学内の国内交流セミナー資金を得て、2名の実務家を招き、学生向けのオンラインセミナー「ファッションロー入門」を主催した。そこで、「ファッションと著作権法:フランス法との比較」という発表をおこなった。そのレジュメは一橋大学の機関リポジトリに掲載されている。この発表では、以下のことを明らかにした。すなわち、フランスではファッションデザインが著作物となる場合が多く、デザイナーがその著作者である。そして、デザイナーとメゾンとの契約関係に介入する規律が、著作権法に置かれている。 (3)終盤には、ALAI Japan(国際著作権法学会日本支部)の2020年度研究大会「著作者の死後における著作権と著作者人格権」において、司会とフランス法の発表を担当した。その成果は、2021年度中に機関誌にて公表予定である。この発表では、以下のことを明らかにした。すなわち、日本では著作権は相続されるが、著作者人格権はそうではない。しかし、著作者の死後に一定期間、遺族が権利行使できるという特別の規定がある。一方フランスでは、著作者人格権も相続や遺贈の対象となり、その結果、日本よりも長期間、子孫や受遺者が権利行使を続ける可能性がある。 (4)最終盤には、「フランスの2019年7月24日プレス隣接権法と対Google競争法事件」を一橋法学20巻1号に研究ノートとして公刊した。また、オンラインの一橋知的財産法研究会において、12月にこの内容で発表した。この発表と研究ノートでは、以下のことを明らかにした。すなわち、フランスで創設されたプレス出版社の隣接権は、プラットフォーム企業からの収益がジャーナリスト個人にも還元されるよう制度設計されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度前半は、3月に11日間入院して膝を手術した影響が残り、また、松葉杖生活によって腱鞘炎を発症したこともあり、体が不自由な期間があった。それが終わった後も、通院やリハビリに時間をとられた。そして、初めてのオンライン授業の準備に、たいへん時間がかかった。 後半はもともと授業が少なく、比較的研究が可能であった。しかし、2020年度から任命された学内の役職が想像以上に重く、特に年度末にかけては対面の会議や業務が多かった。 期間を通じて、コロナ禍のためフランスとの往来ができなくなった。また、研究に必要な刊行物にも刊行遅れが生じ、図書館等を通じた文献へのアクセスも制限された。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度末時点の研究推進方策には、2019年4月の欧州新著作権指令における「著作権契約」条項と、2020年1月22日に元フランス国立図書館長のブルーノ・ラシーヌが文化大臣フランク・リースターに提出した、『著作者と創作行為』に関するレポートに取り組むことを掲げた。 前者は著作者と著作物利用者の間の力の不均衡を是正する条項で、本研究が注目するフランス法の考え方が、色濃く現れている。2020年度には十分に取り組めなかったが、2021年6月には国内法化期限が来るため、EU各国の動向をできる限り解明したい。 後者は、特に漫画分野に重点を置いていると報じられており、やりたいことではなく仕事としての創作行為、著作者支援はぜいたくではないことなど、本研究の問題意識と重なることが書かれているようである。2020年度には、漫画や絵本の著作者による、ラシーヌ・レポートの提言を実現するよう要求する運動について知見を得た。2021年度は、行政の施策と当事者運動の双方を視野に入れ、自営創作者の生計確保に関するフランスの取り組みを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のためフランス出張が不可能であった。 本年度出張できる場合は旅費に充て、そうでない場合は研究室PCの更新など物品費に充てる。
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Research Products
(3 results)