2018 Fiscal Year Research-status Report
知的財産権侵害に対する救済制度の研究-交渉促進規範としての救済法という観点から-
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18K01384
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
愛知 靖之 京都大学, 法学研究科, 教授 (40362553)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 知的財産権 / 救済 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、複数主体が特許発明の分担実施を行う場合に、単独で特許発明の全部実施が行われた場合と同様の侵害責任を課し、救済を認めるべきかを検討した。デジタル技術・ネットワーク技術が急速に進歩する中、サーバやユーザー端末などがネットワーク上で結び付いたシステム全体について、物の発明あるいは方法の発明として特許権が成立することも多くなっている。このようなネットワーク関連発明においては、その実施行為に、サービス提供者、サーバ管理者、エンドユーザーなど複数の主体が関与し、各主体は当該発明の一部のみを実施しているが、全体として見れば発明の構成要件全てが実施されているというケースが生じうる。このような場合に、全体として見ればクレームの構成要件全てを充足する技術が無断実施されているにもかかわらず、実施を複数主体が分担しているという一事をもって常に侵害を否定し、特許権者に一切の救済を与えないことは、特許権侵害の迂回を容易とし、特許権保護を脆弱なものとしかねない。そこで、特許発明の一部実施を行ったに過ぎず、本来であれば侵害責任を負わない者に対し、実施行為の全部を行った者と同様の責任(差止めを受ける責任、特許法102条の推定規定の適用を受ける損害賠償支払いの(連帯)責任、刑事罰の対象となる責任。「一部実施による全部責任」)をいかなる理論的根拠・法律構成のもとで認めるべきかを検討し、成果を公表した。 そのほか、知的財産権侵害に対する救済に関係する研究として、事実審口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず、上告審で、その後に訂正審決が確定したことを理由に事実審の判断を争うことができるかという問題を扱った最高裁判決や、商標権侵害訴訟において無効審判除斥期間経過後に無効の抗弁や権利濫用の抗弁を提出できるかという問題を扱った最高裁判決の検討なども行い、その成果を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
知的財産権侵害に対する救済制度を考えるうえで近時重要となっている事案を分析するという当初の目的をおおよそ達成することができ、成果の公表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、民事的救済(差止請求権・損害賠償請求権・不当利得返還請求権など)及び刑事罰という救済制度全体を横断的・総合的に分析し、当事者間の交渉を最大限促進させるために救済法をどのように活用すべきかを考察する。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた国内出張のうち、調整が付かず断念したものがあった。 今年度に引き続き、本研究課題に関連する文献・資料の購入を進める。また、本研究目的を達成するためには、実務的知見を獲得することが必要となる。そこで、学会や研究会等に参加し実務家と交流することで、実務的知見を獲得するとともに、研究成果の報告や意見交換を通して、本研究課題に関する議論を深める。そのための旅費を支出する。
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[Book] 知的財産法2018
Author(s)
愛知靖之、前田健、金子敏哉、青木大也
Total Pages
520
Publisher
有斐閣
ISBN
9784641179363