2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01387
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
島並 良 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 教授 (20282535)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 知的財産法 / 比例原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、比例原則、すなわち達成されるべき目的とそのために取られる手段との間に均衡を要求する原則が、知的財産法分野においていかなる位置を現在占めているのか、そして将来占めるべきかを検討するものである。比例原則は、これまで日本では行政法や刑事訴訟法において観念されており、また欧州(特に大陸法)においては労働法、契約法、不法行為法などの幅広い分野で用いられている。知財法においては、これまで比例原則が独立して正面から採り上げられたことはないものの、さまざまな法(理)の適用場面で、「知財権の強さが、保護される創作物の価値や重要性に比例したものでなければならない」という観念が見え隠れしてきた。本研究では、この比例原則の思想的歴史、正当化根拠といった基礎理論から出発して、特許法、著作権法、商標法などの具体的な解釈・立法における適用射程を明らかにし、知財法の総論・各論の両面にわたる深化を試みている。 上記のような知財法における比例原則の根拠と射程を明らかにするために、当年度には、知財の価値に比例した保護の程度という課題から一旦離れ、逆に知財権侵害における侵害者の主観(故意、過失、無過失)と(広義の)サンクションとの関係を研究した。具体的には、知財権侵害に対してサンクションが侵害者の主観面の悪性に比例して課される(故意侵害については最も強く、無過失侵害では最も弱い効果が与えられる)べきこと、そして現在の法制度ではそれが必ずしも貫徹されていないことを、実証的・理論的に明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は全期間を神戸大学において、日本法と欧米法を中心とした研究を実施した。このうち、同年度前半では知財権侵害における侵害者の過失が果たす役割について、また、後半では知財権侵害における侵害者の故意が果たす役割について、それぞれ注力し、裁判例と学説を検討した。その際には、日本法の現状を分析すると友に、米国における懲罰的損害賠償制度や、押収における利得吐き出し制度についても調査、参照した。その成果は令和2年度中に公刊予定であり、いずれもほぼ当初予定したとおりの進捗であるため、本研究は全体としておおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終3年目となる令和2年度には、再び物的保護範囲論に立ち返り研究を実施する。知財権は、権利がとられている客体(特許発明、著作物、登録商標など)と、被疑侵害者の係争物件とが、同じかまたは「似ている」場合にしか侵害が成立しない。たとえば、特許権者が特許権を得ている発明と全く異なる技術が他人によって使われても、当該特許権の侵害とはならないことは当然である。このような「似ている」かどうかを判断する基準として、特許法では「均等」、著作権法や商標法では「類似」という概念が用いられており、どこまで均等/類似な物件まで知財権の行使が認められるのかを、物的保護範囲と呼ぶ。本研究では、この知財権の物的保護範囲の広狭が、知財の持つ「価値」といかなる関係にあるかを明らかにする。そこでは、これまで裁判例・学説において、均等侵害成立要件や類似性要件の判断基準が、知財の「価値」を考慮要素としていかに取り込んできたのかを検討し、その是非を論じることになる。
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Causes of Carryover |
予定していた海外調査を、コロナウィルス流行による渡航自粛のため実施できなかったから。本研究3年目以降に海外調査を実施する。
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Research Products
(6 results)