2022 Fiscal Year Research-status Report
デザイン保護に関する意匠法保護秩序の特色とその合理性に関する基礎的研究
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18K01389
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Research Institution | Kokushikan University |
Principal Investigator |
本山 雅弘 国士舘大学, 法学部, 教授 (70439272)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 応用美術 / デザイン / 意匠権保護範囲 / 著作権保護範囲 / デザインの類似性 / 応用美術の美的機能と物的機能 / 美的機能の相対的評価の基準 / 分離可能性基準 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主要な課題に、意匠権保護範囲と著作権保護範囲の異同、換言すれば、意匠法上の類似性認定範囲と著作権法上のそれとの異同の考察がある。この課題に関して、「最先端技術関連法研究」21号に「応用美術をめぐる著作権保護範囲と意匠権保護範囲の相違に関する覚書―応用美術の著作権保護範囲と意匠権保護範囲との調整弁としてのいわゆる狭小保護範囲論の検討として」を公表した(2023年2月)。同論文では具体的な裁判例の分析により、意匠権侵害を導く類似関係は著作権侵害を導く類似関係と一致せず、意匠権保護範囲(意匠法上の類似性認定範囲)を脱し得る形態上の相違点が、著作権保護範囲(著作権法上の複製・翻案による類似性認定範囲)を脱し得るわけではないことを、ドイツ法の最高裁判例も参照しつつ、明らかにした。この成果を前提に、一般的な創作性基準によりデザインの著作権保護を承認することが、当該デザインに関する意匠権保護範囲を超えた独占保護範囲を提供し、当該デザインに関する意匠法保護秩序を混乱させる可能性が否定できないことも明らかになった。また、デザインの著作権保護に関する論点を提供した知財高裁の「タコの滑り台」事件(知財高判令和3・12・8)の判例研究を通じ、デザイン保護に関する著作権解釈論(分離可能性基準)にも理論的な展開・変容が生じていることを明らかにした。さらに、そうしたデザイン保護に関する著作権解釈論の理論的展開を踏まえ、新たな解釈論として、応用美術の美的機能と物的機能との一元的・併存的な把握をベースにその美的機能の相対的評価によって保護されるべき応用美術を見極める考え方が妥当と解される旨を検討し、その研究成果を著作権関係の講演会で公にするとともに、その論文をコピライト740号に「応用美術の美的機能と著作権法による保護ー分離可能性基準と『2つの応用美術問題』をめぐって」として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、意匠権保護範囲の合理的な実態の把握をしつつ、著作権のもとで一般に承認される著作権保護範囲と意匠権保護範囲とを比較し、応用美術ないしデザインに著作権保護を認めることの是非を、そうした著作権保護が応用美術に関する意匠権保護範囲の合理的な秩序を混乱させることがないかを考察することを内容とする。このような本研究の課題との関係で、令和4年度の研究を通じ、意匠権保護範囲に関して裁判例に現に妥当している解釈論(合理的な類似性認定範囲)と著作権保護範囲に関して一般的に妥当している解釈論(合理理的な類似性認定範囲)とが一致していないこと、換言すれば、著作権保護範囲に基づくデザインへの独占保護範囲の提供は、意匠権保護範囲によって提供されるその合理的な保護範囲を超過する可能性があることを、具体的な裁判例の考察を通じて明らかにできたことは、重要な研究進展と評価できる。 また、応用美術の著作権保護に関して、現時の裁判例に妥当する分離可能性基準の考え方について、理論的沿革を明らかにし、その今日における理論的変容を明らかにし、加えて、その理論的な問題点も明らかにしたうえで、そのような理論的問題を抱えた分離可能性基準に代えて、応用美術の美的機能と物的機能との併存的・一元的な把握を前提に、その美的機能の相対評価により、意匠権保護秩序に与える混乱を回避しつつ、著作権により保護されるべき応用美術の見極めを行うべき旨の解釈論を提示できたことも、応用美術ないしデザインの保護のあり方を検討する本研究課題との関係で、重要な研究進展と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を基礎としつつ、本研究課題に関して、それを総括し得るような研究成果の取得を目指す。より具体的には、令和4年度の研究成果により明らかになった、応用美術の著作権保護に関する美的機能の相対的評価による基準について、その具体的な実践例と解され得る裁判例を研究することにより、同基準論の理論的な妥当性の検証を重ねていく。また意匠法の特色をさらに研究するうえで、意匠法の一つの登録要件である創作非容易性(意匠法3条2項)の体系的意義についても、研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
理由の主たるものは、感染症対策の影響で海外調査が思うように実施できなかった点にある。また、本年度の研究課題を実施するうえで、結果的に、新たに購入すべき文献や入手すべき情報の対価を支払う必要が生じなかった点も、理由の一つとなし得る。 次年度は、本研究課題の総括年度にあたることから、総括的に研究を締めくくるうえで、海外の実地調査の必要性は高いものと考えられ、また新たに購入すべき文献も発生し得ると考えられることから、支出は予定通りに必要になるものと考える。
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Research Products
(4 results)