2022 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ弁護士職業法と憲法秩序――我が国弁護士職業法を支える憲法的価値
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18K01392
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
森 勇 中央大学, 日本比較法研究所, 客員研究員 (30166350)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 事に即して振る舞う / Sachlichkeitsgebot / 弁護士の真実義務 / 弁護士の表現の自由 / 弁護活動と名誉毀損 / ドイツ弁護士倫理綱要 / 弁護士の基本的義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、主として、ドイツ連邦弁護士法43条aが定める5つの弁護士の基本的義務の一つである「事に即して振る舞うべし(Sachlichkeitsgebot)」と取り組んだ。この "Sachlichkeisgebot"が意味するところに内包・外延とも当てはまる日本語の表現は、研究者の知る限りなさそうであるが、要は「筋道をはずさないこと」といってよさそうである。このドイツ特有とされる弁護士の義務の歴史はかなり遡る。この義務が如何に重視されていたかは、古い時代におけるこの義務違反に対する処罰からうかがえる。公開の場に弁護士を引出し、この義務に違反する弁護士書面を破り、その足下に投げつけてその面目を潰したのであった。現在では、その内容は条文が示す様に「真実義務」と「侮辱的言動の禁止」に集約されている。法治国家原則のもと紛争解決機構の独立の一機関と位置付けられる弁護士が負う真実義務は、依頼者の利益擁護をもその責務と時に相克する。このジレンマに呻吟する弁護士の姿を書き出すことができた。後者の禁止は、裁判所ないしは相手方(弁護士)批判の限界である。ドイツの弁護士は時として過激な表現を用いて批判をする。表現の自由の下、権利の擁護者として「批判」をその職業上の信条とする弁護士につき、連邦憲法裁判所はどこにその限界線を引いているかを具体例を用いて示した。 もう一つには、ドイツ語での寄稿の機会をえて、独日の位相の違いを踏まえ、わが国の弁護士法制の展開と弁護士の利益相反の禁止に関する規律および禁止違反の訴訟行為の効果に関する最上級裁判所の判例の展開を追った。日独いずれも、弁護士職業法は法律(弁護士法)と弁護士の自律的規律(職務基本規程)の2階建てとなっているが、その両者の関係についての理解は、彼我で異なっている。利益相反についてのわが国の規律とわが国の裁判例を紹介しつつ、その問題点を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
従前から言及してきたように、ドイツ連邦憲法裁判所が弁護士職業法ないしは弁護士の活動に関し下してきた裁判例は、質量とも膨大であり、加えて、取り上げるべき連邦憲法裁判所の裁判例の多くは、「大部」と呼ぶにふさわしく、これを単一の研究者が短期間で整理・分析することはほぼ不可能に近い。ただ従前発表した研究成果において、すでにかなりのドイツ連邦憲法裁判所の憲法裁判例と取り組むことができてきていることから、「やや遅れている。」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
従前同様、弁護士という職業のあるべき姿(職業像)と弁護士の職業活動の望ましいあり方を視座にすえて、研究者が関心を持つ弁護士職業法上の個別問題との取り組みを継続していく。研究者の手法は、再三述べてきたように、ドイツのドイツ連邦憲法裁判所等の一次文献を整理分析したのち、その成果を踏まえたフィールドワーク(特にはドイツの弁護士職業法研究者および裁判官・弁護士のインタビュー)により、問題の核心部分にせまるというものである。この従前からの手法、特にフィールドワーク(ドイツへの出張)は、Covit19そしてそれに続くヨーロッパにおける不安定な状況から、研究者を取り巻く個人的環境の下でははばかられた。まだドイツの研究者・実務家の招聘も同様である。ただ、研究者は、ドイツ最大のケルン大学弁護士法研究所ないしはその構成員を研究協力者に有しており、それらとのコミュニケーションをつうじてフィールドワークの一部を保管することができている。 2023年度においては、具体的にはドイツにおける支配的弁護士像を強烈といってよいほどに反映している「成功謝礼(erfolgshonorar)禁止」について、その歴史的展開を追うことを試みる。基本権である「職業実践の自由」と弁護士に不可欠なその独立性の拮抗する有様を負うことになる。 その後は、すでに中央大学日本比較法研究所ニュースレター63号で予告した「弁護士社団」と取り組む予定である。連邦憲法裁判所等の最上級裁判所が積み重ねてきた枠組を立法化した2022年の連邦弁護士法改正の中核的テーマである。
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Causes of Carryover |
研究者の主な支出計画は、研究者の海外活動とドイツ研究者・実務家の招聘費用からなっている。しかしこれらは、先に述べたようにcovit19の流行と東ヨーロッパにおける戦乱により、研究者を取り巻く個人的状況のもとでは、実現できない状況にあった。このことが予算にしたがった支出を大きく妨げた。 2023年度においては、こうした状況が解消し、研究者のドイツにおけるフィールドワークを実施して、従前の研究成果を発展的に確認するとともに、新たに取り組むテーマについて、その問題点ないしは改正後の課題をドイツ研究者ないしは実務家と胸襟を開いてディスカッションする機会を持てるときが来ることを期待している。
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