2018 Fiscal Year Research-status Report
既存の海洋法秩序への挑戦ー国家管轄権外区域における海洋環境の保護
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18K01394
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
佐藤 智恵 明治大学, 法学部, 専任准教授 (80611904)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 国連海洋法条約 / EU海洋環境法 / 国家管轄権外区域 / 予防原則 / 生物多様性保護 / EU海洋環境保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国家管轄権外区域(公海・深海底)も含む、海洋生物・海洋汚染にも適用可能な、包括的な海洋環境保護法の態様を提案することである。そのために、既存の海洋法秩序に基づく海洋環境保護関連のルール及び国家管轄権原則をどのように変更するのか、伝統的な海洋法ルールである「公海自由の原則」がどの程度制限されるべきか、その際の法的根拠は何かをEUの動向も参照しながら探求する。研究の第1段階として、国家管轄権外区域における海洋生物多様性保護のための新条約の作成に関する国連での議論について、EU、その他先進国、途上国の主張に分けて各々の主張の法的根拠、既存の国際法との整合性、実効性の観点から議論を整理・分析した。特に海洋環境の保護に対するEUの積極的な姿勢はEUの近隣諸国の海洋環境に関する取組みに影響を与えるとともに、国家管轄権外区域に関する新協定等のグローバルな議論にも影響を与える可能性がある。2018年1月16日にEU議会が採択した「2030年持続可能な開発のためのゴールに向けた国際的な海洋ガバナンスに関する決議」の中では、『国家管轄権外区域及び大陸棚の開発のための許可を与えないよう、EU委員会が加盟国に働きかけること』や『深海底の開発活動が海洋の環境、生物多様性及び海洋における活動に与える影響が十分に検討され、全ての潜在的なリスクが明らかになるまで、深海底の商業開発に国際的なモラトリアムを設定するようEU委員会と加盟国に要請する』ことが盛り込まれた。そのうち、EUの主張の基盤をなすと考えられる予防原則(予防アプローチ)に関し、「EU環境法のチャレンジー国家管轄権外区域の海洋環境保護と予防原則」と題して論文投稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の第1段階として、国家管轄権外区域における海洋生物多様性保護のための新条約の作成に関する国連での議論について、法的根拠、既存の国際法との整合性、実効性の観点から議論を整理・分析を行った。その際、EU、その他先進国、途上国の主張に分けて各々の主張の法的根拠、既存の国際法との整合性、実効性の観点から議論を整理・分析している。2018年7月、EUの立場について一橋大学EU法研究会にて中間報告を行い、その際の議論を踏まえた成果を「EU環境法のチャレンジー国家管轄権外区域の海洋環境保護と予防原則」としてまとめ、学術誌に投稿した。研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画どおり、2019年度は第2段階として、昨年度の検討結果を基に、国家管轄権外区域における海洋環境保護のための新たな国際ルール作成の課題を明らかにする。その際、元はEUにおける法の態様を論じる際に唱えられ、現在ではグローバル立憲主義という議論もなされるようになった「立憲主義」という論理も踏まえて検討する。第2段階におおよそのめどがついた場合には、早めに第3段階として、国家管轄権外区域も含む、海洋生物・海洋汚染にも適用可能な、包括的な海洋環境保護法について、国家が負う義務の態様、国際的な履行確保制度を提案する準備に取り掛かりたいと考えている。
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Causes of Carryover |
海外出張旅費に関し、他の予算から支出することができたため、本科研費の旅費を次年度の出張に有効利用できることとなった。また、書籍に関し、海外の研究所及び国際裁判所図書館のデータベースを無料で利用できたため、大量の電子書籍(雑誌及び図書)を無料でダウンロードするとともに、図書を賃借・コピーすることができたため、書籍費用の大幅な節約となった。その差額は次年度以降の書籍購入費(特に立憲主義に関する和洋図書)に充てることにより、研究内容の充実化を図りたいと考えている。
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Research Products
(2 results)