2019 Fiscal Year Research-status Report
北東アジア認識から見た19世紀末英米露政治思想の比較可能性に関する複合的研究
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18K01412
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
竹中 浩 奈良大学, 社会学部, 教授 (00171661)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 北東アジア / ロシア帝国 / 移民 / 先住民 / 国民国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の秋に『模索するロシア帝国―大いなる非西欧国家の一九世紀末』を刊行した。この著書の中で、少数派の宗教に対する体制宗教の態度と政府の政策との関係、中国をはじめとする北東アジアに対する欧米の基本的な見方を明らかにし、西欧において政治的動揺が顕著に現れる19世紀末という時代にあって、北東アジアの問題が自国の認識に深く関わっていることを示した。特にロシアが、北東アジアと西欧の間にあって、西欧とは異なった自意識をもちながら北東アジアの諸民族の間では他者でしかありえないという複雑な状況の中で自らのアイデンティティを模索したことを確認した。刊行に先立ち、一部を論文「ゴレムィキン内相期のロシアにおける地方自治の諸問題―ゼムストヴォをめぐる論争を手がかりとして―」として発表した。 この成果を比較の観点から位置づけるために、2018年10月にロシア史研究会で行った報告「明治維新と大改革」をさらに深め、論文の形にまとめた。この中では、欧米と中国との間にロシアと日本を位置づけ、よりグローバルな視野において問題を立てることに意を用いた。これは本研究の中心的なコンセプトに関わる作業である。 夏にイギリスにおいて調査研究を行い、英米露清の知識人がこの地域と民族、特にチベット人及びモンゴル系の遊牧民に対してもった認識を知るのに役立つ文献について調査した。それによって、補助事業期間の前半で集中的に行ったロシアについての研究から、期間の後半において、比重を英米に移し、広域的宗教であるチベット仏教とそれを信じるマイノリティに関する研究に進むための基礎を築くことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において挙げた四つのテーマに関する研究のうち、第3と第4のテーマに関する研究を先に進めた。すなわち、中国・朝鮮など東アジアからの移民と、ドゥホボールやモロカン、シュトゥンデストなど、セクト信者を中心とした宗教移民に対するロシア帝国内の思想状況に関する研究である。これらに関しては概ね予定した成果を生むことができた。秋に刊行した著書『模索するロシア帝国―大いなる非西欧国家の一九世紀末』の重要な部分がこの成果の公表に充てられている。 この著書においては、第1と第2のテーマを研究するための基本的な枠組みの提示も行われている。すなわち、西欧と非西欧とを単に異質なものとして対比するだけでなく、その関係の複雑さを、国家の形、国内の政治体制、政治的次元と文化的次元の関係といった座標軸を相互に関係させることで、立体的に明らかにするという方法的枠組みである。その意味で、この著書は本研究の折り返し点となるべき著作である。 ここで得られた視角を適用したロシアと英米の比較そのものについては、なお十分な成果を生むにいたっていないが、準備は着実に進めている。成果の一部は、2018年10月にロシア史研究会で行った報告「明治維新と大改革」に基づいて執筆した論文において公表される。この論文は、2020年中に学術雑誌に掲載される予定である。 2019年度の後半は、チベット仏教を信じる人々に対する英米露清の態度や見方についての研究に力を傾注した。なお具体的な成果を発表するにはいたっていないものの、国内及び英米露に所蔵されている文献の調査を行い(イギリスについては現地に赴いて調査した)、最終年度に研究を本格化させるための準備を行うことができた。それ以外の北東アジア先住民に関する研究については、最終年度において集中的に実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間の最終年度である2020年度は、ロシアを中心としたこれまでの研究により見出された視角を英米についても適用し、多様な問題を、より広い文脈において整理しつつ、全体としての比較を行う。その際、以下の二つの大きな問題に沿って作業を進める。第一は、北東アジアを理解する上で、普遍宗教である仏教に対する関心がどのような役割を果たしたのかという問題である。同じ非キリスト教徒でも、仏教徒に対する評価・関心は、シャーマニズムを信じるマイノリティに対する評価・関心と異なることがありうるからである。特に、人種主義や心霊主義といった、19世紀末欧米に現れた現象が、北東アジアに対する認識にどのような影響をもたらしたかについて分析する。2019年度のイギリスでの調査研究は主としてこの問題についての認識を深めるために行われた。その成果を活かしながら、英米とロシアの比較を行う。第二は、第一次世界大戦後に支配的になる民族自決の理念が、戦前においてもヨーロッパで次第に力をもつなかで、イギリスとロシアという二つの帝国が中国という政治社会の特質をどう見たか、特にその中でチベットやモンゴルといった民族をどのように扱おうとしたかである。これについては、中国人研究者の協力も得ながら研究を進め、帝国間比較の道筋を明らかにする。 本年度は補助事業期間の最終年度であるが、新型コロナウィルス感染拡大を防ぐため、旅行の自粛が求められていることもあって、調査・報告共に大きな制約を受けざるを得ない。その中でできる限り研究を進め、一応のまとまりをつける。上記の二つの軸に沿ってこれまでの研究をまとめ、事情が許すなら学会等で研究報告を行い、論文の形にする。さらにこの研究で行った個別の分析をより大きな研究の枠組みに結び付ける。
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Research Products
(2 results)