2019 Fiscal Year Research-status Report
有権者を動かすのは理性か感情か-候補者評価と情報取得の実験的研究
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18K01425
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
中村 悦大 愛知学院大学, 総合政策学部, 教授 (10432783)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 政治学 / 投票行動 / 実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度は愛知学院大学政策科学研究所『政策科学』第10号において「高年齢層を対象とした音声変換を利用したジェンダーバイアスに関する実験」を報告し、音声変換を利用した研究がある程度進展したため、今年度は顔情報の役割を明らかにする研究をすすめた。まず政治家向きの顔はどのようなものかを明らかにするべく、愛知学院大学総合政策学部の若者と高齢者に、政治家として望ましい顔はどのようなものかを調査することから始めた。政策評価論前半クラスの2年生99名、公開講座参加者91名にアンケートを行い、美人度、リーダー性、真面目・信頼できる、優しい、投票したいの各項目を5点評価について顔写真から評価してもらった。若年層では真面目なリーダーに見えることで投票したくなる顔と美人で優しそうに見えることで投票したくなる顔の存在が示される一方で、高齢層では真面目なリーダーに見えることで投票したくなる顔のみが発見された。 この顔を用いて若年層を対象にコンジョイント分析を行ったところ、顔情報がある場合とない場合において大きく評価基準は変わらず様々な変数が合理的に投票選択に影響している一方で、顔による有利不利は依然として有意に投票意向に作用しているということが分かった。また、アイトラッキングにより視線の動きから検討様式を調べたが、この場合においても顔情報がある場合とない場合において大きな違いが存在せず、若者は比較的合理的に情報を処理しているということが分かった。この結果はECPR 2019において報告した。 この実験に加え、あらたに高齢者を対象としてのコンジョイント実験を行い、またVRによる政治家の印象の変化の調査や高校生を対象とした自然実験による調査なども行った。これらの結果はまだ論文としてまとめ切れていないが、2020年度には論文にまとめることを目標にする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先にも述べたように、研究期間の折り返しを迎えたが、実験・調査そのものは当初計画していたものを小規模ながらおおよそすべて実施している。加えて、そこからさらに派生してVRによる政治家への印象に関わる実験や高校生に対する選挙時の情報取得の調査など発展的な実験・調査を行っている。その意味では当初予定を超えて順調に進んでいるが、一方で当初想定した仮説とは異なり、若年層の情報処理は比較的合理的になされており、情報をフラットに処理している傾向がある。情報処理のスタイルが年齢に関係している可能性も高く、この点を確認しなければならないことや、また実験機材・ソフトウェアのさらなる洗練も必要なため、当初予定よりも難航している面もある。これらは現在一部進めてはいるが、まだ高齢層にアイトラッキングによる分析を行えていないという問題があるため、この点をスムーズに実現する方法を考えなくてはならない。 また、今年度は学会報告を行ったが、論文としての出力が十分とは言えなかった。3年目を迎えて折り返し点を超えるため論文など分かりやすい出力を出していくための努力がさらに必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の折り返しを迎えたが、実験・調査そのものは当初計画していたものを小規模ながらおおよそ実施してみた。3年目の今年に関してはまず、これまでとった調査データの分析を行う必要がある。先にも述べたが、高齢者を対象としてのコンジョイント実験を行い、またVRによる政治家の印象の変化の調査や高校生を対象とした自然実験による調査なども行った。これらの結果はまだ論文としてまとめ切れていないが、2020年度および21年度には論文にまとめることを目標にする。 また、当初想定していたほど若年の有権者は感情に影響されていないという結果が出ているがこれが高齢層にも当てはまるかというのは当初想定していなかった大きな課題である。情報の処理という意味でも研究の重要な課題となるため、高齢者を対象とした形に広げていく必要がある。 次に、実験の実施及び分析の環境にまだ十分とは言えないところがある。特に他機関に協力を求めるに際して実験を行うソフトウェアを開発することにより、より理想的な実験環境及び分析の自動化を進める。この作業を2020年度に行う。最後に、2021年度には改良されたソフトウェアをもとにさらに対象を増やした新しい実験を行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
実験において必要となるアイトラッキングデバイスに関して、実験実施を円滑に行うためにはもう一台必要であるが現在まだ発注を行っておらず一台で済ませている。また、実験のボランティアに関して謝礼を不要とするケースが多かった。しかし、これからさらに実験を多く増やしてゆくために、このようなギャップは今後減っていくと考えられる。
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