2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K01431
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Research Institution | National Institute of Technology, Kumamoto College |
Principal Investigator |
遠山 隆淑 熊本高等専門学校, 共通教育科(八代キャンパス), 准教授 (60363305)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | W・バジョット / 政治的決定 / 議会政治 / 信用 / フランス第二帝政 / ルイ・ナポレオン / 世論 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度は、内閣における政治的決定に到達する以前に、政治指導者あるいは政治制度と有権者との間に生じる信用や信頼の関係が政治的決定内容の性質にどのように影響するのか、という論点について、W・バジョット(1826-77年)のフランス第二帝政論を分析することで検討した(「不信のシステム――バジョットのフランス第二帝政論」『法政研究』第85号第3・4合併号、2019年3月)。 バジョットは、大革命以後のフランス、とりわけ二月革命が失敗に終わり、ルイ・ナポレオンが大統領に就任した後のフランスでは、政治秩序の将来的な維持に対する国民の信用度がきわめて低い状況に陥っていると考えた。バジョットによれば、ナポレオン3世が巧みに行ったように、そうした不信が蔓延する状況では、「パン」に象徴される物質的利益を国民に対して不断に供給することを通じてのみ政治秩序の維持が可能であった。皇帝と国民とが生活物資を媒介に直接結びつくこのような「不信のシステム」の下では、討論によって作り出される合意形成やその過程は不要であり、それゆえこのシステムにおいては議会が果たす役割もない。バジョットの理解では、反対に、合議を通じた政治的決定を行うことができない議会政治家や知識人たちの政治姿勢が、ナポレオン3世の政治支配を強化するという結果をもたらしている。これら、政治秩序の長期的見通しに対する被治者の信用と議員や知識人ら政治指導層による合意形成の可能性の有無に、討論による政治的決定への到達という議院内閣制に不可欠だとバジョットが見なした基本的な条件を看取することができるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
討論や合議を通じた政治的決定の基本的条件としての政治秩序の長期的見通しに対する被治者の信用という論点を、バジョットの様々な論考から分析して描き出すことに多くの時間を要してしまったために、内閣に対するヴィクトリア時代知識人(ダイシーら)の議論の直接的な検討にまで踏み込むことができなかった。ただし、論文等として公表するまで分析が進んでいるわけではないが、J・S・ミルの行政府論については、『代議制統治論』(1861年)を読み込み分析することができたため、2019年度以降の本研究の遂行において大いに活用できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の進展をふまえて、イギリス国制における内閣の位置づけをめぐってヴィクトリア時代の知識人や政治家が展開した議論の分析に踏み込む。はじめに『イギリス国制論』だけでなく、他にも『エコノミスト』を中心に多くの政治的リーダーシップ論を展開したバジョットの内閣論の検討に取り組む。次に、バジョットの後に重要なイギリス国制分析を残したと考えられるA・V・ダイシーの国制論について、『憲法序説』(初版1885年)を中心に検討する。研究代表者のこれまでの研究から、多様な議員から構成される下院の特質が尊重される内閣運営の必要性をウィッグが説いたことは明らかにできたが、当時の論者たちからは、首相や内閣による強力な政治主導に期待を寄せる議論も見ることができ、これについてはいまだ検討できてはいない。こうした視点から、彼らの国制論を核として、政党指導者が議事運営権を握り、政権の強力な指導者となっていく過程を追跡することで、内閣の位置づけや役割認識をめぐるヴィクトリア時代の議論について考察する。特に、内閣への権限の集中が進む中で、「議会と内閣」ならびに「政党と内閣」、「各省庁間」のそれぞれの関係をめぐる議論を蒐集し分析する。
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Causes of Carryover |
【現在までの進捗状況】で述べた研究対象に多くの時間を割いてしまわざるを得なかったため、19世紀のイギリス政治史の研究を十分に進めることができなかった。そのため、研究費目として想定していた政治史関連の史料や文献を購入するまでには至らなかった。
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