2020 Fiscal Year Research-status Report
Thailand: Changing Political Roles of the King and Destabilization of the National Polity
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18K01447
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
浅見 靖仁 法政大学, 法学部, 教授 (60251500)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | タイ / 王政 / ワチラロンコーン / プミポン / 王室 / 国王 / 民主主義 / クーデター |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナウイルスの影響により、予定していたタイでの現地調査を行うことができなかった。このため文献調査を進めるとともに、オンラインでタイ人にインタビューしたり、インターネット上で公開されている王室関係の資料や情報、2020年に大きな盛り上がりをみせた若い世代を中心とする王政改革要求に関する情報などをSNSや各種のオンラインツールを使って精力的に収集、分析した。 2020年6月に開催された日本比較政治学会の第23回研究大会(大阪市立大学で開催予定だったが、Zoomによるオンライン開催に変更)においては、「立憲君主制と民主主義:君主は民主主義を救えるか」と題する分科会に「タイにおける王室の政治的役割の変化と民主主義の迷走」というタイトルのペーパーを提出し、それに基づいた口頭発表を行った。 研究成果の一部は、日本記者クラブでの記者会見(12月18日)、日タイ経済協力協会主催のウェビナー(10月1日)、国際経済研究所での講演(10月1日)、さらには読売新聞、毎日新聞、NHK、TBS、文化放送等の報道番組でタイの国王の政治的役割や王室改革要求運動の背景や今後の見通しなどについて解説することによって、一般社会にも還元した。 また2020年4月にアジア政経学会が刊行した『アジア研究』第66巻第2号に「アジアで民主主義は後退しているか?」と題する特集に掲載された4つの論文を総括する「アジアにおける民主主義の後退の構造とエージェンシー」というタイトルの論文も執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年は、王政改革の必要性を訴える運動が大きな盛り上がりを見せ、8月から11月にかけては国王の政治的役割についてこれまでよりも多様な意見が公然と語られるようになったが、11月後半以降は国王や王室に対する批判的な言動に再び不敬罪が適用されるようになり、王室改革要求運動の指導者が次々と逮捕・投獄されたため、王室の政治的役割についてタイ国内にいるタイ人が公然と語ることが難しい状況になっている。こうした状況の中では、直接会って話を聞く現地調査を行うことが非常に重要であるが、新型コロナウイルスの影響で2020年度に現地調査を行うことができなかったことは、本研究の進捗に大きなマイナスとなったことは否めない。 しかしタイでも4月にはロックダウンが行われ、タイの大学でもオンライン授業が一般的になり、官公庁や一般企業でもリモートワークが広く取り入れられるようになったことによって、タイでも各種のオンラインツールを使う人が増え、リモート・インタビューを行うことが以前に比べて格段に容易になったため、現地調査を行うことができなかったマイナスの影響をリモート・インタビューによってある程度は緩和できた。 本研究プロジェクトも後半になり、インプットだけでなく、アウトプットにも力を入れる段階になっているが、日本比較政治学会の研究大会で報告を行ったり、アジア政経学会が発行する学会誌に論文を発表したりした他、2021年に刊行される予定の単行本に所収される原稿の執筆も2020年度中にほぼ終えることができた。2021年7月に開催される日本タイ学会の研究大会や2021年12月に開催されるthe 14th International Conference on Thai Studiesにおいて研究成果を発表する準備も着実に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
取り締まりが厳しくなってきているとはいえ、若い世代を中心とする王政改革要求運動は今後も継続すると思われ、近い将来国王の政治的な役割に大きな変化が生じる可能性は小さくない。それらの動きについて最新の情報を収集し続けるとともに、最近さまざまな資料が利用可能になってきたプミポン国王時代の王室と政治との関わりについてもさらに研究を進める。 2021年度は本研究プロジェクトの最終年度であるので、2021年7月に開催される日本タイ学会の研究大会や2021年12月に開催されるthe 14th International Conference on Thai Studiesにおいて研究成果を発表するとともに、研究成果を論文のかたちでも発表する。最終年度であるため、アウトプットに重点を置くが、新型コロナウイルスの影響で、2020年に一度も現地調査を行うことができなかったことが本研究プロジェクトにとって大きなマイナスになっているので、2021年度にはタイ入国後タイ政府が指定する隔離施設で一定期間自己隔離を行った上で、現地調査も行うこととしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年度に予定していたタイでの現地調査を行うことができなかったため、2020年度に計上していた現地調査のための予算を年度内に使用できなかった。また大阪市立大学で開催予定だった日本比較政治学会の研究大会で研究成果を報告したが、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催になったため、研究大会出席のための交通費・宿泊費等の支出も行わなかった。このため次年度使用額が生じたが、次年度使用額は、タイでの現地調査を行うことによって使用する。今後タイでの新型コロナウイルスの感染状況がどのようになるかを予測することは難しいが、現在のままの状況が続くと、タイ入国後2週間の自己隔離が必要となるため、現地調査を行うためにタイに滞在する期間が通常時よりも長くなる。厳しい状況ではあるが、本研究プロジェクトを完了するためには、タイでの現地調査が不可欠であるので、2020年度に使用しなかった研究費を2021年度に使用することによって、タイ到着後、必要とされる期間の自己隔離を行った上で、現地調査を行うこととしたい。
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