2021 Fiscal Year Research-status Report
Thailand: Changing Political Roles of the King and Destabilization of the National Polity
Project/Area Number |
18K01447
|
Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
浅見 靖仁 法政大学, 法学部, 教授 (60251500)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | タイ / 王政 / 不敬罪 / プミポン / ワチラロンコーン / 国王 / 民主化 / 政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、新型コロナウイルスの影響により、夏に予定していたタイでの現地調査を行うことができなかったが、21年3月には現地調査を行うことができた。現地調査を行うことができなかった期間は、文献調査を進めるとともに、オンラインでタイ人にインタビューしたり、インターネット上で公開されている王室関係の資料や情報を精力的に収集、分析した。 これまでの研究の成果は、2021年5月に文眞堂から出版された『タイの近代化:その成果と問題点』(阿曽村邦昭編)という単行本に所収された「タイにおける王室の政治的役割の変化と民主主義の混迷」(pp.169-209)という文章にまとめた。2021年7月10日に開催された日本タイ学会の第23回研究大会(愛知大学で開催予定だったが、オンライン開催に変更)では、「『プミポン・コンセンサス』再考:その成立過程と負の遺産」というタイトルで発表を行った。 2021年12月10-12日に京都大学で開催される予定だった第14回国際タイ学会(International Conference on Thai Studies)でも報告を行うことになっていたが、新型コロナウイルスの感染拡大のため、開催が2022年4月末に延期され、報告を行うことはできなかった。 2022年3月15日から26日に行ったタイでの現地調査では、王室関係者に直接会ってインタビュー調査を行ったほか、タマサート大学の研究者を訪ねて情報交換を行ったり、王政改革要求デモの現場を訪れて、デモ参加者に聞き取り調査を行ったり、不敬罪で長期間拘束されたことのある活動家からも話を聞くことができ、大きな成果が得られた。 研究成果の一部は、日タイ経済協力協会主催のウェビナー(10月29日)などで講演することによって一般社会にも還元した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、前年に大きな盛り上がりを見せた王政改革の必要性を訴える運動が、政府による激しい弾圧によってやや下火になり、王室の政治的役割についてタイ国内にいるタイ人が公然と語ることが以前よりも難しい状況になった。こうした状況の中では、直接会って話を聞く現地調査を行うことが非常に重要であり、2022年3月に2年半ぶりにタイを訪問し、現地調査を行うことができたことによって研究を大きく進めることができた。 3月に現地調査を行うことができるようになるまでは、これまでの研究成果をまとめて論文として執筆したり、学会での報告に力を入れたが、2020年度から2021年末まで現地調査ができない状態が続き、当初の計画通りには研究を進めることはできなかった。このため2022年度まで研究期間を延長し、2020年度や2021年度に行うことができなかった現地調査を2022年度に集中的に行うことにした。 現地調査をできない期間には、タイ以外の国における国王の政治的役割や憲法上の国王についての規定についても調べ、タイにおける国王の政治的役割を他国と比較して分析するための準備作業も行った。安易なタイ特殊論に陥ることなく、タイにおける国王の政治的役割の変化を社会科学的視点から分析するためには、他国との比較が重要であることを改めて強く認識することができた。 またこれまでに収集した1950年代や1960年代のプミポン国王統治期の前期についてのさまざまな資料を読み進めていくことによって、タイにおける国王の政治的役割の時系列的な変化についての理解も深めることができた。これにより、他国との比較によるクロス・カントリー分析と、タイ国内の時系列的な変化を組み合わせて行うことが可能になり、国王の政治的役割の変化の説明変数についての分析をより精緻なかたちで行うための基盤を築くことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
政府による厳しい取り締まりによって、若い世代を中心とする王政改革要求デモの参加者は減少傾向にあるが、現国王に対する不満や不敬罪の撤廃、王室改革を求める声は消えてはおらず、時間がたつにつれて社会の広範な層に浸透しつつある。タイでは2023年3月までには総選挙が行われ、なんらかの政治的な変化が生じる可能性があり、それによって現国王に対する不満や王室改革を求める声が再び盛り上がる可能性は小さくない。それらの動きについて最新の情報を収集し続けるとともに、最近さまざまな資料が利用可能になってきたプミポン国王時代の王室と政治との関わりについてもさらに研究を進める。 本研究プロジェクトは、2021年度に終了する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大のため、2020年度は一度も現地調査を行うことができず、2021年度も3月になるまで現地調査を行うことができなかったため、研究期間を1年延長することとした。通常研究期間の最終年度は、情報収集よりも収集した情報の分析や論文等の執筆に力を入れるが、現地調査ができなかった期間にそれまでに収集した情報の整理・分析や、論文の執筆、オンラインで開催された学会での発表を精力的に行った一方、2020年度と2021年度に予定していた現地調査を十分に行うことができなかったので、2022年度は現地調査による情報収集にも力を入れる。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年度に予定していた3回の現地調査を1度も行うことができず、2021年度に延期したが、2021年度も3月に現地調査を1度行うことができただけで、当初予定していた期間の3分の2弱の現地調査しか行うことができていない。このため現地調査のために計上していた予算が未使用となっている。 首都圏以外で開催される学会の研究大会で研究成果を発表するための国内出張予算も計上していたが、発表を行った学会はすべてオンラインでの開催となり、出張費が未使用となったため、国内出張旅費も未使用となっている。 2022年度は新型コロナウイルスによる渡航制限やタイ国内での行動制限が大幅に緩和される見込みなので、研究期間を1年延長し、未使用の研究費を用いて、2020年度と2021年度に十分に行うことができなかった現地調査を2022年度に行うことを計画している。
|
Research Products
(2 results)