2018 Fiscal Year Research-status Report
Time Bank governance in community comprehensive care in super aged society
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18K01450
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福田 耕治 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (20165286)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福田 八寿絵 帝京大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (60625119)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 時間銀行 / 地域包括ケア / 多職種連携 / ボランティア / イノベーション |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢社会の地域包括ケア・システムに時間銀行制度を組み込む先見的ガバナンスの在り方について欧州諸国の先行事例と日本の類似制度を検討した、わが国への示唆を得ることを目的として、まず超高齢社会において公益実現を図るために要請されるイノベーションと経済成長・雇用・社会保障制度の在り方と、それら諸制度の関係性を見据えた先見的ガバナンスの必要性について考察した。研究手法は、先見的ガバナンスや時間銀行に関する先行研究と先進事例の調査報告書等を基に論点整理を行い、理論的枠組みと制度運用の実態との比較に基づいて、日本公益学会の年報『公益学研究』(第71巻「地域包括ケアのための「時間銀行」による先見的ガバナンスーイノベーションと公益―」という論稿を公刊した。 第1年次の研究の結果では、グローバル化の負の側面、市場原理に基づく「市場の失敗」、配分原理に基づく「政府の失敗」を乗り越え、セーフテイネットを張りなおすための市民社会の試みとして、地域通貨、時間銀行、地域コミュニティ・ケアなどの相互扶助や互酬原理に基づく持続可能な制度の必要性が強く認識され、世界的に社会実験が重ねられてきたことが浮かび上がった。今後の検討課題としては、日欧の「地域包括ケア・システム」の運営の実態、特に地域のボランティアが主体的に参加する時間銀行やその類似制度neverいついてのヒアリング調査や実証研究を通じて、共通する問題点や課題を析出することである。ベスト・プラクティス(最善の方法、最良の事例)を検討し、最も優れていると評価される地域実践事例から有効な制度設計や運営の基準などを標準化し、各地域活動拠点で情報共有し、公益的観点にたって各地域での実践や評価、研修教材などに活かしていくことが次の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本では、2012年介護保険法改正に際して打ち出された保健医療・介護・福祉が密接に連携した「地域包括ケア」政策を推進しつつある。高齢社会化の急激な進行に伴い、要介護者も増大し、医科学技術のイノベーションによって、障がいを持ちながら長期療養をし、あるいは就労や社会的活動を行う人々も少なくない。これらの人々に対して、家族では介護しきれないケースが増えている。 最先端の科学技術イノベーションは、社会イノベーション と統合されてはじめて、公益の増進へとつながる。社会イノベーションの一つである「時間銀行(時間預託)(time bank)」制度は、市民のボランティア活動を「時間銀行」と呼ばれる管理システムに組み込み、地域全体として時空間を越えた社会連帯ガバナンスの仕組みを構築する試みである。ボランティア活動を支える支援者が他者とかかわる行為に要する時間をめぐって、労働に準じる時間なのか、社会的時間、自由時間なのか、各人の人生(生きられる時間)において自己の意思で自発的に選択した使用時間の質や解釈の仕方について多くの議論が行われてきた。欧州諸国では既に自治体行政を巻き込んで「時間銀行」は、政治と経済のギャップを架橋する仕組みである。欧州委員会でも時間銀行は市場経済と非市場経済との間の垣根を乗り越えようとする試みでもあると捉え、各加盟国にその取り組みをいくつかの報告書を出して推奨している。この時間銀行の取り組みは、少子高齢社会の日本においても介護労働力の不足が課題となる中で、有効な社会問題のソリューションの一つとなる可能性を秘めている。本研究計画では、欧州諸国やEUにおける先行的取組を検討し、わが国においても導入可能な「地域包括ケア」施策を検討するアイデアの一つとなる時間銀行制度に焦点を当て、第1年目は先行研究を渉猟し、論点整理を行った。ほぼ計画通り、研究は進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
超高齢社会の進展が避けられない現実となった日本では、医療・介護・福祉の多職種連携によるプライマリーケアを基礎とした総合的な医療サービス供給体制の確立が喫緊の課題となってきている。福岡県の自治体(京築医療圏)における医療と介護の個人単位のレセプトを分析した結果によれば、①発症後70%弱の患者が回復期病棟、20%強の患者が療養病床へ、②発症6か月後、70%の患者が介護サービスを受け、施設介護が20%、在宅・通所系介護を受け、③脳梗塞で急性期病院に入院した40%が6か月以内、また50%強が1か月以内に介護サービスを受けていたことを示している 。 これは超高齢においては、急性期、回復期、慢性期において医療・介護が複合化しており、多様な形態の地域包括ケアが多職種連携によるネットワーク・モデルに生活支援をも含めた医療・介護・福祉サービスの供給体制が必要であるといえる。プライマリーケアの充実には、在宅主治医・かりつけ医の養成が要請されるだけではなく、長期継続ケアを可能となるよう専門医、開業医、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士などの専門職の多職種連携による協力体制の確立が不可欠である。高齢社会の患者ニーズが、医療、介護、生活支援などの多領域に及ぶ現実に鑑みれば、地域包括相合可能な地域包括ケア病棟、総合診療専門医の養成、研修とともに、多職種の多科診療所の設立なども検討する必要がある。 第2年次以降の研究では、医療分野及び福祉分野の共同分担研究者と協議しつつ、これらの「地域包括ケア」のための多職種連携にふさわしい時間銀行は、いかなる制度が適切なのか、医療・介護・福祉・行政とボランティア団体NGO/NPO(ソーシャルワーカー)各分野の担当者に直接インタビユーやアンケート調査を行い、収集したデータの解析を行い、具体的な問題点を把握し、個々の対応策を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
研究分担者とともに、現地ヒアリング調査に出向くことを予定していたが、研究分担者の授業等学内業務との関連で当該年度内の実施が困難となった。次年度の調査対象となる現地調査先に加えて、医療分野の専門家に加え、次年度から福祉分野を専門とする研究分担者も加え、ヒアリング調査とアンケート調査を実施する予定である。
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Research Products
(3 results)