2019 Fiscal Year Research-status Report
「クーデタ後」の政軍関係の比較政治史的研究-イベリア両国を事例として-
Project/Area Number |
18K01456
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
武藤 祥 関西学院大学, 法学部, 教授 (40508363)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 権威主義体制 / 政軍関係 / イベリア半島政治史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に以下の3点を中心に作業を行った。すなわち①スペインとポルトガルにおける軍関係史料館の調査、②スペインとポルトガルの政軍関係に関する二次文献の渉猟、③政軍関係に関する先行研究(主に理論的なもの)の包括的レヴュー、である。 まず①に関しては、2019年9月より研究代表者がスペイン・マドリードにて在外研究を開始したため、本格的な史料調査に着手した。2019年3月の事前調査に基づき、2019年12月には軍総合史料館(Archivo General Militar)のアビラ分館にて、また同年10月と12月にはリスボンの軍史料館(Arquivo Historico Militar)にて、それぞれ調査を行った。 ②に関しては、日本で入手の難しい文献を中心に、両国の軍に関する通史的研究、また権威主義体制から民主化への移行期における政軍関係に関する研究などを渉猟した。 ③については、政軍関係に関する古典的研究のレヴューを進めると同時に、近年の権威主義体制に関する研究も多く参照した。従来の研究の多くは、権威主義体制と軍は一体、もしくは軍は権威主義的支配の道具として体制に従属するという前提に立っていることが多かった。しかし近年の「クーデタ耐性」の議論などからも、権威主義体制下でも(それがいわゆる軍事独裁でない限り)体制・政権と軍との間に緊張関係が存在することは、理論的にも実際上も明らかである。こうした研究がもたらす知見は、本研究が対象とするスペインとポルトガル(体制と軍との関係という点で、両国は極めて対照的である)とを比較する際にも有益である。こうした観点を踏まえながら、(体制移行期までをも視野に入れた)権威主義体制下における政軍関係のあり方に関する分析枠組の構築を目指している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の通り、本年度後半はスペインとポルトガルにおいて、軍に関する一次史料の渉猟に着手できた。ただ、これらの史料は、純粋に軍事的な側面に関するものであったり、有力軍人に関する一件文書であったりして、本研究の目的(権威主義体制に関する政軍関係の解明)に直接的に寄与するものは必ずしも多くなかった。 同様のことは二次文献についても言える。すなわち、両国における軍の通史的研究や、体制移行期の政軍関係を扱った文献は質量とも比較的豊富に存在するのだが、権威主義体制期の軍(特に政軍関係)を扱った文献はさほど豊富とは言えないのが実情である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、①一次史料の調査対象を拡大し、②分析にあたっての視角を微修正すること、を検討する。 すなわち、①に関しては、これまで軍の公式の史料館を渉猟してきたが、文民政治家の側の史料(いわゆる公文書の類だけではなく、メモワールや日記・書簡など)にまで対象を拡大し、軍の側以外から「政軍関係」(それは政治と軍の相互作用でもある)を、より広い視座から捉えなおしたい。 これと関連するが、②についても、本研究計画書に記載した「軍が(当時の)権威主義体制をどのように認識していたか」という、主観的認識のみに焦点を当てるのではなく、文民政治家・政権側からの視座も取り入れ、多角的に政軍関係を分析していきたい。その際には、「研究実績の概要」にも記した通り、近年の、権威主義体制における政軍関係に関する研究の知見も導入していく。 なお、本報告書執筆時点(2020年4月)において、コロナウィルス感染拡大の影響は依然として深刻であり、特に一次史料の調査・渉猟にあたって今後困難が予想される。2020年度は本研究計画の最終年度であるが、この点に鑑み、当初予定していなかった2021年春(2月から3月)に現地で比較的長期間の史料調査を実施することで、何とか期間内での計画完了を目指したい。
|
Causes of Carryover |
本研究課題を申請した段階では、研究代表者の在外研究は決定していなかったため、調査にかかる研究旅費(当初、2019年夏と2020年春に海外調査を実施予定)が大幅に減ったことが、次年度使用額が生じた最大の理由である。2020年度は引き続き9月まで在外研究を行う予定だが、スペイン国内およびポルトガルで史料調査を行うことで、経費を適切に使用していきたい。
|