2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01464
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
古瀬 啓之 三重大学, 人文学部, 准教授 (70509174)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 漢口・九江租界接収事件 / イギリス租界 / 英中条約改正 / 1927年 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、租界返還交渉過程において表れるイギリスの租界返還政策を分析することにより、最終的にはそこから導き出されるイギリスの対中構想の解明を目指すものである。租界の返還とは、概ね租界内行政権の中国への返還のことを指す。 それにあたり、2018年度においては、イギリスの租界行政権返還に大きく関わる主要な事件を取り上げて時系列に考察を行っていった。本年度はまず、1927年の漢口・九江租界返還交渉におけるイギリスの政策、上海共同租界の危機への対応について考察した。具体的には、国民政府による1927年の漢口・九江英国租界強制接収事件へのイギリス対応、ならびに事件解決のための英中間での合意形成過程(陳・オマレー協定)を考察し、イギリスの租界返還政策を検討した。考察にあたり用いた史料は、主にイギリスの外交文書である。また本年度は、イギリス国立公文書館で史料収集を行う予定であったが、当該史料の電子版ライセンス購入が可能であることが年度の途中で判明したため予定を変更し、旅費は当該ライセンス購入のために使用した。 本年度の史料に基づく研究の結果、イギリスの租界返還の具体的なプラン、構想が明らかになってきた。イギリスは租界の返還を拒否するつもりはなく、長期的かつ段階的な租界返還政策を構想し、そこでは租界の返還「方法」を最重要視した。そして、イギリスの租界返還政策においては、複数ある租界ごとの状況に合わせて返還プランを検討していたことが判明した。イギリスは租界返還を、既存の租界行政システムの継承、ならびに返還後の当該地域の安定という現実主義的観点から検討していた。これらの点は、これまでの研究ではあまり明らかにされてこなかった点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度は、1927年から1928年までの中国におけるイギリス租界返還政策について検討して、その成果を一部論文として公表する予定であった。だが、実際には、1927年の史料読解にもとづく検討にとどまってしまった。理由は、本研究費に基づく史料調査、収集を行った結果、関連する史料を予想以上に収集することができ、それに伴い読解すべき史料が膨大な量に及んだためである。さらに、読解を進めるにつれて、租界に関する条約、権利関係が非常に複雑であることが判明し、その理解に予定よりかなり時間がかかってしまった。また、同時並行で行った本研究にも関わる他の論文の作成、ならびに公表に時間を割かなくてはならなかったことも影響している。 しかし、予想以上に史料が集められた点は、研究進度の遅れをもたらしたものの、より詳細かつ明解な研究成果につなげられるものと考えられる。今後は、研究のペースを上げて、当初の予定通り計画を遂行できるように努力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の進捗状況は、当初の計画よりは遅れてはいるが、今後は遅れを取り戻し、最終的には計画どおり国民党政府による北伐完遂の1928年から、満州事変、上海事変により日本の対中拡大が顕著となってくる1932年までの期間と、日本による中国支配傾向がさらに強まる1930年代中盤から1940年代前半におけるイギリスの租界返還政策、並びにその構想を考察する。またイギリスの外交文書だけではなく、中国、日本、アメリカの外交史料も収集ならびに考察して、租界返還政策を軸に当時の英中日米関係を検討していく予定である。 また、当初の計画では、イギリス国立公文書館所蔵のイギリス外交文書を中心に史料収集を予定していたが、当該史料は、現在、ライセンス購入によりオンラインでの閲覧、ダウンロードが可能であるため、本年度も前年度同様、科研研究費により当該ライセンスを購入して史料収集、読解、分析を行っていきたい。これにより、イギリス国立公文書館へ直接向かうよりも効率的に史料収集、読解が行える。また、2019年度には、中国南京での史料調査も予定している。これは主に1927年のイギリスと中国の間の租界返還交渉に関する史料の調査を目的とするものである。 また、本研究の途中経過について、同分野の研究を行っている研究者の見解を求める機会を設けたい。具体的には、小規模な研究会での発表と意見交換を行う予定である。 以上、これまで同様、主に国内外の史料収集、読解を中心に考察していくのが本研究の推進方策である。
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