2018 Fiscal Year Research-status Report
新冷戦の研究-原因、過程、構造、グローバル国際政治との相互関連性を中心として
Project/Area Number |
18K01472
|
Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
六鹿 茂夫 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 国際関係学研究科附属広域ヨーロッパ研究センター客員研究員 (10248817)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 新冷戦 / 一帯一路 / 16+1 / EU=中国関係 / 中国製造2025 / バルカン・シルクロード戦略 / 中国の欧州分断政策 / EU投資スクリーニング法 |
Outline of Annual Research Achievements |
新冷戦は、米ソ二極構造を基本とした旧冷戦と異なり、欧米=露対立と米中対立を基本構造とする。それゆえ、新冷戦の実態を把握するには複数の関係軸を理解する必要があるが、2018年度は、日本のアカデミズムにおける真空である中・欧(中国と欧州)関係について分析し、以下の結論を得た(詳細は、六鹿「欧州で高まる中国警戒論」『東亜』2018年)。 1)EUと中国の貿易は2010年代前半に飛躍的に増大したが、欧州の対中貿易赤字が膨らんだ。さらに中国が、2000年代中葉以降欧州ハイテク企業の買収を本格化させたため、中・欧間の経済問題は安全保障問題と化した。中国政府が国有企業を使って、「中国製造2025」や「権威主義的社会主義発展モデル」の輸出など国家戦略を推進しているとの警戒感が、欧州で高まったからである。その根底には、欧州の市場経済体制と中国の党・国家主導型経済体制との構造的な対立が横たわっていた。 2)この構造的対立に、中・東欧やバルカンをめぐる地政学的対立が加わった。中国が中・東欧諸国との「16+1」協力やバルカン・シルクロード戦略に執着したため、中国による欧州分断政策への懸念が深まったのである。 3)その結果、EU=中国関係は、2016年と2017年のサミットが共同声明を出せない程緊張したが、EUは、一帯一路関連プロジェクトに対する査察メカニズム、EU投資スクリーニング法、「欧州とアジアの連携」構築など、対中対抗策を強めた。 4)ところが、2018年にEU=中国関係は、7月サミットが共同声明を出すまでに回復した。米国と新冷戦に突入した中国がEUに歩み寄ったためである。これに対しEUの対中政策は、トランプ政権の「アメリカ第一主義」をにらみながら、是々非々で進められていくであろう。それゆえ、日本の対米、対中、対欧政策は、これら欧・中関係と米中関係の連動性を勘案しながら進めていくべきである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度研究計画通り二つの研究成果が得られたので、研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。一つは、2018年度「研究実績概要」に記したように、新冷戦のグローバル国際政治との関りについて、中国と欧州との関係性に焦点をあてて分析し、成果が得られたことである。 もう一つは、欧米とロシアの新冷戦の原因を、1)冷戦後の欧州国際秩序の生成過程と新冷戦の萌芽、2)諸大国の狭間の地域をめぐる諸大国間権力闘争の歴史的連続性、3)非連続性としてのEU/NATOによる価値の東方拡大と、それをめぐる旧ソ連地域におけるトランスナショナルな対立構造、4)プーチン大統領の権力基盤の推移、から明らかにしたことである。 すなわち、1)ドイツ統一をめぐる諸大国間交渉過程において、ゴルバチョフ大統領の欧州集団安全保障構想が排除され、NATOとEUを核とする冷戦後の欧州国際秩序の萌芽が形成されたことで、ソ連(ロシア連邦)が潜在的修正主義国家となった。2)2000年代中葉以降、バルト海から黒海へと至る諸大国間の狭間の地域をめぐって、西欧とロシアの歴史的権力闘争が再燃した。3)さらに、EU/NATOの価値の拡大により、欧米とロシアの価値をめぐる対立みならず、旧ソ連諸国において、民主主義体制と権威主義体制をめぐるトランスナショナルな対立構造が出来上がった。4)かかる状況において、ロシアが2007年に外交・安全保障政策を転換し、潜在的修正主義国から実質的修正主義国へと変貌したため、ロシア=ジョージア戦争が勃発した。これに対し欧米が宥和政策で臨んだため、権力基盤が現実主義派から民族主義派へと移行したプーチン政権は、ウクライナでマイダン革命が起きると、クリミア併合を断行した。ここにおいてロシア=ジョージア戦争への対応の誤りを認識した欧米が対露制裁に踏み切ったため、ロシアとの対立が高じて、新冷戦が起きたのである。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、新冷戦の原因および新冷戦とグローバル国際政治のかかわりについて、欧州と中国の関係に焦点をあてて研究した。2019年度は、同研究成果を踏まえ、第一に、欧州=中国関係の新たな展開を継続的に追うとともに、第二に、欧米とロシアの対立の場となってきた中・東欧において、米欧露および中国がいかなる国際政治を展開しているのか、とりわけ「16+1」をめぐるこれら諸大国の関係を明らかにする。さらに、第三に、新冷戦の包括的分析枠組みの構築に向け、米中、中露、米露関係にも分析の対象を広げていく。その際、専門書、論文、インターネットなどからの情報に加え、必要に応じて現地調査を行うことで、活字情報からは得られない情報も加えて分析するよう心がける。
|
Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】当初海外調査は航空運賃が比較的安価な2019年2月から3月に行う予定であったが、昨年秋に研究成果報告をする機会を得たため、急遽8月末から9月に掛け欧州の中国専門家とのインタビューを計画した。ところが、当初予算を上回ったため前倒し請求を行なったが、その際、研究に支障が出ないよう若干余裕をもって請求したため、次年度使用額が生じた。 【次年度使用計画】2018年度同様、新冷戦に関する書籍の購入と情報収集、海外における現地調査に使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)