2018 Fiscal Year Research-status Report
1970年代におけるグローバル・ショックへの対応と日本型政治経済システムの形成
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18K01488
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Research Institution | Nishogakusha University |
Principal Investigator |
佐藤 晋 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 教授 (30385968)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 和宏 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 人文社会科学群, 准教授 (70468726)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中国の台頭 / 金融のグローバル化 / ナショナリズムの抑制 / 日米同盟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で日本のグローバル化をもたらしたきっかけと考える第1次石油危機について、佐藤が「田中内閣と石油危機」として公表した。それにより田中が石油価格高騰というグローバル・ショックによって引き起こされる経済的負担を、自らの支持基盤の動揺を抑えるため、大企業に重く一般市民に軽く、高所得者に重く低所得者に軽く、雪国に軽くという方向での分担させたことを明らかにした。ついで、中曽根内閣に関する講演で佐藤が行ったように、ソ連の脅威の増大というグローバルショックには、中国・韓国との関係強化での対応が図られ、その文脈で国内のナショナリズム的動きは抑えられたことを明らかにした。したがって逆に、中国の台頭・国力増大という今日の最大課題であるグローバル・ショックにはほとんど懸念を感じていなかった。 さらに佐藤は検討対象を安倍内閣期という現代に向け、中国の国力の増大に対する脅威認識が、安全保障政策のみならず経済政策にも基底的な影響を与えていることを示した。つまり集団的自衛権の一部行使に向けた動き、一連のアベノミクスなどの根底には中国の脅威にどう対応するかという問題意識が存在しているのである。また、1970年代初頭のドル・ショックを起点に1980年代から本格化した金融に主導された経済面のグローバル化へは、日本の対応は後手後手となり、ものづくり先進国として誇った経済大国の地位を失い今日に至っている。そこで、安倍内閣は金融のグローバル化による金利低下傾向とデフレ継続の共存という事態を、マイナス金利政策で乗り切ろうと図っている。また遅ればせながらTPP加入による貿易面のグローバル化と外国人労働者受け入れというひとの面のグローバル化にも踏み出した。これらは、1970年代から続くグローバル化への対応が、閉鎖的・政府介入による衝撃吸収型手法では無理となったことを示していると判断できよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グローバル化の起点である田中内閣期を対象に、資源面でのグローバル・ショック=石油ショックへの対応を分析した結果、これを「閉鎖的・政府介入型」と類型化することができ、1980年代の中曽根内閣の日米貿易摩擦への対応を同じく政府介入タイプで、閉鎖的対応と開放的対応の中間にあると考えることができた。また、安倍内閣を分析したことで、貿易面・金融面・ソ連・中国の「四つのグローバル・ショック」のうち、消滅したソ連はともかく、中国への対応と金融面での対応が立ち遅れていることが判明した。その結果、この二つへの対応を1970年代に遡って分析することで、現代日本の問題点を浮き上がらせることができると確証でき、研究進展への見通しが強まった。 一方、高橋は、『ドル防衛と日米関係』(2018年7月)の刊行に注力し、1960年代の国際環境において余儀なくされた対応とは、グローバル化が進展した1970年代における対応は大きく異なることが理解された。また、日米関係だけに集中できた1960年代と、日本自身も中国・ソ連への外交的対応が必要となった1970年代以降とは大きく違うことも理解され、これらの点は研究グループとしての研究推進に寄与した。
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Strategy for Future Research Activity |
佐藤の今後の課題として、まずは三木内閣以降の1970年代~80年代における政権が、経済のグローバル化にどのような仕方で対応したのかを検討することが挙げられる。サミットなどへの対応を中心に外交資料も公開されつつあり、今年度中には第2次石油危機への対応を分析したい。次に、当時の新冷戦下におけるソ連の脅威増大への対応を、今の安倍内閣による中国の脅威増大への対応と比較する形で分析しておきたい。ただし、資料的制約が存在するので、その完成は3年目になると考えられる。 一方、高橋が単著執筆から得られた知見を生かして、中曽根内閣の貿易摩擦における対米対応の特異性について分析する。特に貿易摩擦が経済摩擦にまで発展し、単なるモノの市場開放だけではなく金融・為替面における譲歩を余儀なくされた理由について解明する。また、佐藤は日中間のいわゆる歴史認識問題についての研究を発展させ、中国が大国化するまでの時期になぜこの問題を解決させておくことができなっかたのか、特に天皇訪中の「成功」が日本側に「錯覚」をもたらしたのではないかという仮説をもとに分析する。 最終年度においては、1970年代から1980年代におけるソ連の脅威とモノの面のグローバル化にそそこそ「成功」した体験が、金融面のグローバル化と中国の急速な大国化への対応を謝らせた、または遅延させるようになった態勢を国内にビルトインしてしまったのではないかという視点から結論を求めたい。
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Causes of Carryover |
佐藤、高橋共に前年までの研究の継続部分であったため、すでに収集済みであった資料により、一定の研究ができたこと。さらに新玉研究テーマに関して、まずは国内の資料収集・読解を進めたが、その主要な資料である外務省外交史料館所蔵資料が無料で利用可能であったこと、また、佐藤は群馬県高崎市の青雲塾に中曽根康弘関係資料を求めて訪問したが、利用に値する資料が全くなかったため。
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Research Products
(5 results)