2018 Fiscal Year Research-status Report
The Reversed Image of the United States as Liberal and China as Mercantilistic
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18K01489
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
伊藤 剛 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (10308059)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 米中関係 / 保護主義 / 自由主義 / 日米中関係 / 軽い同盟 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、以下の二点について主な成果があった。 第一に、海洋安全保障分野において、アメリカの行う「自由航行」原則と、中国の「陸地延長論」とも取れるような海洋領域を陸地と近似して扱う考え方との相克に対して、両国がどのように認識の相違について対処しているかについてである。これについては、アメリカでの調査のみならず、東南アジア・南アジア諸国への現地調査によって、米中両国から当該国へのアプローチがどのように行われているかを明らかにすることができた。全体像全てが明確になったわけではないだろうが、米中「貿易戦争」の元において、中国が近隣諸国へのアプローチにある程度の柔軟性を持たせていることも明確になってきている。 第二に、米中関係の歴史的側面を多少なりとも冷戦史の観点から明らかにできたことである。これについては、戦略研究学会の機関紙に二本の論文を寄稿し、歴史的にもアメリカはアジア内部での紛争に対して「適度に」関わってきたことを検証した。「軽い同盟」と命名したが、アメリカは一方でアジア諸国同士がある程度の紛争要因を抱えている方がコミットメントの理由を正当化でき、しかし他方で過度の緊張が生じないように同盟諸国による戦闘意欲を殺いできた側面も存在していた。このように硬柔入り混じった戦略を取ることが、むしろアメリカ自身の「優位」につながってきたのである。 研究会、シンポジウム、論文執筆との三本立てで実績を積み上げていく方針は、今後も変わらず継続したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在進行中の課題であるため、資料そのものは数が多く存在しており、それなりの全体像を構築するには事欠かない。しかし、本当に重要な文書は、これまでもそうだが、ある程度の年月が経たないと明らかにならない側面もあり、その点では今後も時間を置いて検証を行っていく必要はある。 また、国が異なれば、同じ現象を見る「視角」も異なってくるため、継続的に海外における研究者・政策当事者との間での意見交換や政策評価は必要である。今後も同じようなアプローチを取っていきたい。 もうひとつの課題は、現在動いている課題であるために、ともすれば現状を詳細に見ることに時間を費やしてしまい、理論的視角や方法論が欠如する可能性があるので、この点についても注意を向けていきたいと考えている。ひょっとしたら、現在起こっている米中間の「貿易戦争」は、戦後体制の大きな変革を意味するかもしれず、研究者としてこのようなマクロの視点も必要であろう。
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Strategy for Future Research Activity |
ひとまず初年度が終了したばかりであるが、トランプ政権による関税政策は今後も継続されるだろうが、それ自体が本来アメリカの利益に適っているかどうかも含めて、今後も資料の収集と、現状分析に焦点を当てていきたい。 同時に、初年度に行ったように、ある程度は米中の歴史的側面にも注意を払う必要があろう。米ソ冷戦の時代、両国の貿易は年間20億ドル程度であったが、今日の米中貿易はこの貿易量を一日で片付けてしまう。その意味で、冷戦時代の米ソ関係と、今日の米中関係は、根本的に異なるのである。経済的に相互依存は継続している。しかし、その貿易自体が円滑に機能しなくなり、(本当は必要ないかもしれないが)米中両国間に摩擦を引き起こしているのが現状である。 また、単純に貿易量だけでなく、本来なら知的財産権をはじめとする米中両国間の「スタンダード」をめぐる競争が究極的には摩擦の対象となってくるかもしれない。その意味で「一番であること」が経済分野においては重要であり、「経済の政治化」現象が起こっている。二年目以降は、こういった「政治的側面」にも着目したいと思っている。 また、変わらず、海外の研究者・政策当事者との意見交換、国際会議への参加を主に活動を展開し、論文や著作をまとめることを中心として研究を展開する予定である。
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Causes of Carryover |
別資金の消化を優先したため。
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Research Products
(5 results)