2018 Fiscal Year Research-status Report
日米韓の安全保障関係の形成と展開に関する歴史的および政策的研究
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18K01490
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
李 鍾元 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (20210809)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日米韓 / 米韓同盟 / 日韓関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度に当たり、当初の計画通り、主として日米韓の安全保障関係の理論と歴史に関する一次史料・政策文書や研究文献の収集・分析を進めた。まず、一次史料については、韓国外交史料館に加え、韓国延世大学に所蔵されている李承晩文書、金大中大統領図書館所蔵資料などを中心的に調査・収集した。政策文書については、外交安保研究所や国防研究院、統一研究院など韓国政府のシンクタンクが発行した報告書を調査した。合わせて、各政権で外交政策に携わった担当者や関係者を対象に面談調査を行った。 理論的な文献としては、日米韓関係に関する近年の研究文献に加え、比較の対象として、日米豪など他の三国協力の事例、冷戦終結後のNATOの変容に関する研究文献などを体系的に収集した。 初年度の研究成果の公開については、韓国政府の東アジア外交全般に関する論考として、「東アジア共同体と韓国――〈ミドルパワー〉外交の視点から」(木村朗編『沖縄から問う東アジア共同体』花伝社、2019年)、「東アジア共同体形成の現状と課題」(広島平和研究所編『アジアの平和と核』共同通信社、2019年)などを刊行した。これらは日米韓関係のコンテクストとして東アジアの国際関係とそれに対する韓国の外交に焦点を合わせたものである。 2018年には、韓国・文在寅政権の成立、南北および米朝首脳会談などにより、朝鮮半島情勢が大きく変容し、それに伴って日米韓の安全保障関係にも様々な変化が見られた。急変する情勢変化を分析する作業が求められ、学会や国際会議での報告を多数行った。日本防衛学会平成30年度秋期研究大会のシンポジウムに講師として招請され、「朝鮮半島の脱冷戦と東アジアの新冷戦」と題する講演を行い、韓国政府傘下の研究組織が主催した3・1運動100周年記念国際学術大会では、論文「朝鮮半島の平和体制と北東アジア地域共同体の構築」を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に当たり、一次史料・政策文書や研究文献などの収集が基本的な課題であったが、その点では、おおむね計画通り進展している。韓国政府の外交文書は1980年代の全斗煥政権期まで公開されているが、それに加えて、韓国延世大学所蔵の李承晩文書、金大中大統領図書館所蔵資料などを重点的に調査した。米国の外交文書も1980年代まで公開されているが、国立公文書館などが提供するデータベースを中心に調査を行った。また、政策文書としては、日米韓の各国政府やシンクタンクが刊行した報告書類を体系的に調査し、収集した。 政策担当者・関係者への面談については、主として韓国の各政権の関係者やブレーンを務めた研究者らを対象に調査を行うことができた。とりわけ、2017年の文在寅政権の成立、2018年の南北・米朝首脳会談の実現で、「朝鮮半島の平和体制」が具体的な課題として浮上するにつれ、日本と韓国で日米との安全保障関係の変化に関する議論が活発になり、多くの国際会議や研究会が開催された。その機会を利用して、日韓の政策担当者、研究者との意見交換を行い、研究課題に関する多様な知見を得ることができた。 研究文献については、比較対象として、冷戦終結後のNATOの変容、日米豪など三国協力の事例を重点的に収集し、そのほか、日米が推進するインド太平洋構想、中国が主導する一帯一路構想など、日米韓関係を取り巻く地域秩序の変容に関する近年の研究文献を重点的に収集し、分析を進めている。 研究成果の公開については、当初の計画では、初年度に文献調査に基づく理論的な考察の論考を予定していたが、朝鮮半島情勢や日米韓安全保障関係の変容に関する政策論的な分析が求められ、国際会議や学会での報告を多数行うことになった。 また、韓国側の資料調査に重点を置いたため、日本や米国の資料はその概略の把握に留まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
第1次年度の調査を踏まえ、2019年度にも、一次史料の収集を中心とした歴史研究と、現実の外交問題を分析する政策研究を有機的に関連づける基本的な方向性を維持しつつ、研究を進める。資料収集の面で、初年度に、韓国側資料については、外交史料館など公式の外交文書を中心に体系的な調査を行ったが、引き続き、政府刊行資料やシンクタンク報告書の収集を進める。並行して、各政権の政策担当者や関係者への面談調査も継続的に実施する予定である。2019年度にも韓国の学会・国際会議に積極的に参加し、研究成果発表と韓国側専門家との意見交換を行う。 それに加えて、2019年度には、様々なデータベースを活用して、東アジアおよび日韓に対する安全保障体制の論議に関する外交文書や政策文献の収集に重点を置く。その多くは、昨今の朝鮮半島情勢の変化を視野に入れたものだが、歴史的背景に関する研究文献も多数発表されており、それらを手がかりに、米国の東アジア・朝鮮半島政策の変容過程の解明に力を入れる。 日本の安全保障政策については、戦後の対朝鮮半島政策に関する資料や研究文献の調査・分析を引き続き行う。とりわけ、ポスト冷戦期の安全保障政策の変化については、近年活発に研究が行われているため、それらを踏まえて、東アジアおよび朝鮮半島情勢の変容に対する日米韓三国の対応に焦点を合わせて、資料収集と分析を進める。 近年の日韓関係の変化が示すように、米韓、日韓および日米韓関係のあり方は、「中国問題」や「北朝鮮問題」をめぐる各国の政策志向性と密接に関連している。その点に注目しつつ、各国の政策研究の動向を包括的に整理し、分析を試みる。 第2次年度である2019年には、研究成果の公開として、日米韓の安全保障関係の形成や変容に関する歴史学的な論文とともに、現在の状況に関する政策研究の論考の執筆を進める。
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Causes of Carryover |
初年度に資料調査や関係者面談調査のため、韓国出張を計画したが、会議への招聘などで韓国を訪問する機会を数回あり、それを利用して調査と面談を行うことができ、科研による出張費を使用しなかった。 初年度に節約となった韓国出張費用は、次年度に追加の韓国出張、資料・文献の収集に使用する予定である。また、日米韓の安全保障関係において、中国問題の占める比重の大きさに鑑み、中国の東アジア地域戦略や中韓関係に関する資料調査や関係者面談のため、中国での現地調査を新たに追加して行う。
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Research Products
(6 results)