2019 Fiscal Year Research-status Report
日米韓の安全保障関係の形成と展開に関する歴史的および政策的研究
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18K01490
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
李 鍾元 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (20210809)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日米韓 / 米韓同盟 / 日韓関係 / インド太平洋 / 地域主義 / 一帯一路 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目となる2019年度は、その前半(2019年4月~9月)が在外研究期間と重なり、中国北京大学での研究(4月~7月)や韓国訪問など、現地での文献・資料収集や関係者との面談を中心に研究を行った。とりわけ、北京大学を拠点とした3か月の中国滞在は研究課題の遂行において大変有益であった。中国語能力の向上と文献収集に加えて、ちょうどその時期(4~7月)に、徴用判決など歴史に起因する争点や日本の対韓輸出規制で、日韓関係が悪化し、その半面、習近平主席の電撃的な平壌訪問で中朝関係に改善の動きがあったことで、中国で朝鮮半島や日韓関係への関心が高まり、中国現地の研究者と踏み込んだ意見交換をすることができた。また、北朝鮮と国境を接する遼寧省や吉林省を訪問し、中朝関係の現場を観察することができた。また、2019年度の後半は、日韓関係の懸案をめぐるシンポジウムやセミナーが日韓両国で多数開かれ、そこで研究成果を披露し、日韓の研究者や政策担当者と議論する機会を持つことができた。 こうして得られた資料や知見を土台に、研究成果として、韓国文在寅政権の「新南方政策」が、インドネシアを中心とするASEANと連携しつつ、日米が進める「インド太平洋戦略」と中国の「一帯一路」構想を架橋しようとする側面に焦点を合わせた論文を執筆し、刊行した。当初は、初年度から理論的枠組みを整理し、日米韓関係に対する韓国の外交政策を古い時代から時系列的に分析する予定だったが、地域情勢の変化に触発され、現在の状況から遡る形となっている。 日米韓トライアングルの中での日韓関係についても、現状の変化を踏まえて、摩擦の背景にある構造的要因に注目して分析し、その成果を日本、中国、韓国でのセミナーやシンポジウムで発表し、原稿化を進めている。 その他、日中韓関係に関する文献や資料については、初年度に続き、体系的な収集を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、2年目に当たる2019年度に米国のアジア政策における日韓関係に重点を置き、韓国および米国の公文書館での資料調査・収集を予定していたが、年度末に生じた新型コロナの発生で米国出張をとりやめるなど変更を余儀なくされた。韓国での資料調査については、年度中の数回の学会講演の機会を活用してある程度はできたが、米国資料の調査は現地出張ができなくなったため、オンラインデータベースなどで入手可能な資料や文献の調査を重点的に行うしかなかった。その半面、2019年度前期の中国での在外研究期間を活用して、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)や韓国へのサードミサイル配備など、日米韓関係に対する中国の見方について、関係者への面談調査ができたことは大きな成果であった。また、中国在住の韓国外交官や企業関係者らとの面談を通じて、中国の一帯一路構想における朝鮮半島の位置づけ、それに対する韓国政府の対応などについても、現場の感覚を踏まえた多くの知見を得ることができた。 米国の資料については、現地の公文書館での調査はできなかったが、近年公開が進んでいるオンラインデータベースを包括的に調べ、日米韓関係に関する外交文書などを多数収集することができた。また、米国が新たな地域安全保障戦略として進めている「開かれたインド太平洋」構想について、多くの報告書や論考が出ており、日米韓や日米豪などのトライアングル体制の拡張型という側面に注目し、体系的な資料収集と分析を行ってきた。 当初の研究計画では、主として米国の地域安全保障戦略におけるトライアング体制を中心的なテーマとし、その一環としての日米韓という位置づけで調査・分析を始めたが、トランプ政権に入り、地域安全保障政策がより広域的になり、日米韓の枠組みの相対的な意味は変化している。今後、こうした視点からの日米韓関係の考察をも加える予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目になる2000年度には、新型コロナの感染状況を確認しつつ、まず、2019年度に実施できなかった米国や韓国の公文書館での調査を進める。海外出張や調査が可能になれば、米国での調査を優先的に行いたいと考えているが、もし不安定な場合は、引き続き米国の資料はオンラインデーターベースを中心に収集、分析する。また、韓国での現地調査もできる限り補足的に実施する予定である。合わせて、日本外務省文書への公開請求も進めていく。2019年度にいくつかの争点に関する情報公開請求を試験的に行った結果、開示資料の内容的には不十分さが目立つが、朝鮮半島に対する日本の安全保障政策の一端を窺う実証的な手掛かりを得ることができた。今年度は、日本の関連外交文書の開示請求をより体系的に行う予定である。 3年目に入り、研究成果の全体的なまとめを視野に入れ、分析枠組みとして、米国の地域安全保障政策の中で、日米韓などトライアングルの構図から、「インド太平洋構想」などより広域的な協力体制への変容がみられる点を踏まえ、米中などの広域構想において日韓および日米韓の安全保障協力体制が持つ意味に焦点を合わせた概念や政策論の整理を進める。 具体的な争点については、懸案となっている日韓GSOMIAをめぐる日韓の認識のズレ、米中の広域構想に対する日韓の対応の異同などを中心に、その経緯や背景、政策論議に関する実証的な分析を進め、その成果を研究会・学会の報告や学術論文として発表する。 それらを踏まえて、米国の地域政策における日韓関係のあり方の変化の文脈で、日米韓関係の歴史的変容の経緯と意味を包括的に解明するまとめの作業を進める。現行の日米韓関係は主として北朝鮮という「旧冷戦」の脅威に対抗する仕組みとして誕生したが、中国の台頭に触発されたいわば「新冷戦」の状況の中でどのような機能を持つのかという視点である。
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Causes of Carryover |
韓国での資料調査は他の国際会議などの機会が多数あり、それを活用して行ったために、旅費が大幅に節約された。 また、2020年2~3月の春季休暇などの期間に韓国や米国での資料調査を集中的に行う予定だったが、新型コロナの拡散による旅行制限で実現することができなかった。 同じく海外での資料調査の際に予定していた面談協力者などへの謝金も支出ができなかった。
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Research Products
(7 results)