2020 Fiscal Year Research-status Report
Social Construction of the renewable energy market in US: an analysis focusing on the strategic aspects of RE
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18K01493
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
小尾 美千代 南山大学, 総合政策学部, 教授 (70316149)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 気候危機 / ダイベストメント / エンゲージメント / 再生可能エネルギー / 座礁資産 / グリーン・スワン / アメリカ / ESG |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、気候変動への重要な対応策である再生可能エネルギーの導入拡大に注目し、温室効果ガス排出大国のアメリカにおける再生可能エネルギー市場の社会的構築の解明を目的としている。分析にあたっては、州政府・主要都市などの政府系アクター、多国籍企業や大手金融機関などの民間経済アクター、米軍を含めた国防総省を中心とする軍事アクターの3つを主な分析対象としている。2020年度は4年間の研究計画の3年目にあたる。本年度は、大手金融機関などの民間経済アクターに焦点を当て、金融分野など民間での脱炭素化の動きを中心に研究を行った。 気候変動への対応を考慮すると、埋蔵されている化石燃料の80%は利用できずに座礁資産となることがこれまでも指摘されてきた。2020年には国際決済銀行とフランス中央銀行が気候変動によるグローバル金融危機について、「グリーン・スワン」という概念を提示して警鐘を鳴らしている。このような認識は、アメリカの金融業界でも浸透していることが確認された。化石燃料関連企業への最大の投資家であった世界大手資産運用会社ブラックロックや金融大手のゴールドマン・サックスなど大手企業による、化石燃料関連事業からの投資撤退であるダイベストメントや、積極的な気候変動対応を促すエンゲージメントの動きが見られた。加えて、環境・社会・企業統治を重視したESG投資についても、アメリカでは2019年に前年の4倍にまで急増するなど増加している。さらに、金融機関以外にも、特にグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトなど巨大IT企業や大規模な多国籍企業による脱炭素化が積極的に展開されている動きも確認された。これらの民間アクターは、例えば、フェイスブックが2030年までにバリューチェーン全体でカーボン・ニュートラルを宣言するなど、いずれも関連企業への波及効果が大きいという点が注目される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度に所属大学で教務部長に任命され、大学の教務業務(共通教育科目・各学部学科科目を含めた授業運営・定期試験・資格科目など)を担当することとなったが、折からの新型コロナウイルスへの対応から業務量が通常以上に多くなり、相当の時間を費やさざるを得ない状況となった。加えて、2020年7月以降、遠隔地に住む家族(実母)の緊急入院に伴い、介護などの対応が必要な状況となり、研究に充てる時間をかなり犠牲にせざるを得ない状況となってしまった。 それでも研究で必要な情報や資料についてはウェブ上でもある程度は入手可能なことから、特に民間金融セクターにおける脱炭素化の動きを中心に研究をおこなったが、残念ながら論文としてまとめ上げるまでには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究計画に沿って、州政府や主要都市の準国家アクター、多国籍企業や大手金融機関などの民間アクター、国防総省および米軍の3つのアクターを主な分析対象として研究を進めていく。ただし、アメリカでは2020年の大統領選挙の結果、気候変動政策に消極的であった共和党のトランプ政権に代わって民主党のバイデン政権に政権が交代された。バイデン政権は積極的な気候変動政策を前面に打ち出していることから、こうした連邦政府レベルでの政策の変化についても研究対象としていきたい。 これまで、軍事アクターによる再生可能エネルギー導入については、州政府や主要都市の準国家アクター、多国籍企業や大手金融機関などの民間アクターと比較すると、研究状況があまり進んでいないことから、成果を公表できるように、研究を進めていきたい。 今年度もコロナ禍が収束していないため、教務部長業務を中心とする大学業務が活動全体に占める割合が高くなることが見込まれるが、研究時間を確保できるようなスケジュール管理・業務管理を心がけたい。
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Causes of Carryover |
2020年度は、参加を予定していたアメリカでの国際学会やアメリカ政治学会が新型コロナウイルスの影響でキャンセルされ、また、学会参加に合わせて予定していた資料収集や、英文チェックのための謝金についても支出できなかった。2021年度については、引き続き海外での現地調査は困難なことが予想されるが、ポルトガルで開催予定であった世界政治学会がオンライン実施となったものの、公募の報告が許可されているため、英文での論文公刊については積極的に対応していきたいと考えている。
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