2021 Fiscal Year Research-status Report
日本外交における「自主」「自立」の実像と虚像ー1950年代の対米自主路線の考察
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18K01498
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
楠 綾子 国際日本文化研究センター, 研究部, 准教授 (60531960)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日米関係 / 同盟 / 日本外交 / 安全保障 / 冷戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため、海外での史料収集・調査は断念せざるを得なかった。2021年秋の数か月を除いては蔓延防止措置か緊急事態宣言が発令されていたことから東京での史料調査・収集も1度しか実施できず、外交文書や防衛庁の行政文書等の調査が進まなかった。一方で、これまで米国で収集してきた公文書や個人文書などの史料の分析に時間をとることができ、1950年代の日米関係がより立体的な像を結びはじめている。とくに、鳩山政権末期から岸内閣初期に至る時期(1956年~1957年)の米国の対日政策や、東南アジア条約機構(SEATO)結成に至る過程とその後のSEATOの展開について、事実の再構成ができるようになったことは大きな成果である。 史料分析に並行して、今年度は対日講和条約について論文をまとめた。日本政府による多数講和の「選択」がいかなる判断に基づき、またいかなる結果を想定していたのか、「寛大な講和」の具体的内容、とりわけ賠償・請求権や在外日本資産の処理など経済問題について日本政府がどのような方針で臨んだのか、といった点について、主として外務省文書に基づいて分析している。1950年代以降の日本外交の展開について議論する一つの基盤になるものである。くわえて、ISA(International Studies Association)やEAJS(European Association for Japanese Studies)のパネルなどに参加し、海外の冷戦研究者や国際政治学者との交流を深めた。とくにEAJSでは、防衛分担金をめぐる日米関係について報告し、国際政治理論の観点からコメントを得られたことは貴重な経験であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
依然として史料調査・収集の困難は続いているが、これまでに収集した日本や米国等の一次史料の分析が進み、1950年代の日米関係の展開について議論をできる基盤はおおむね整ったと考えている。また、これまでのアメリカ外交史や冷戦研究などを利用しつつ、1950年代前半から半ばごろまでの米国のアジア太平洋地域における同盟政策について理解を深めることができ、日米の安全保障関係を地域の国際関係のなかでとらえなおすことも可能になった。今後さらに考察を深める材料を豊富に得られたという点で、全体として順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
米国の国立公文書館や軍関係の史料館にはまだ調査していない文書があり、海外出張が可能になり次第、史料調査・収集を実施したい。日本国内でも国立公文書館に移管されている防衛庁等の史料の調査・収集を進める。これに並行して、基地の運用や防衛分担金をめぐる日米関係、鳩山内閣期の安保改定構想など、これまでに論文や口頭報告のかたちで発表してきた議論を軸として、1950年代の日米関係の全体像を再構成する作業に取り組むことになる。
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Causes of Carryover |
日本国内および海外での史料調査・収集がほぼ実施できず、国内外の学会もすべてオンライン開催となり、計上していた旅費が使用できなかったことが最大の要因である。2022年度は感染症対策にともなう移動制限がかなり緩和されることが予想されるため、可能なかぎり史料調査・収集を実施する予定である。また、中国語史料の解読や英語論文の校正などの謝金としても使用する予定である。
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Research Products
(3 results)