2021 Fiscal Year Research-status Report
所得のパレート分布に関する理論研究:技術進歩とグローバリゼーションを中心として
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18K01509
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
春山 鉄源 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (70379501)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 所得分布 / パレート分布 / 経済成長 / 技術進歩 / Gini係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
所得分布の右裾はパレート分布に従うことが知られている。右裾とは,高所得者の分布を指している。本研究は,内生的技術進歩理論を使い,その発生要因とグローバリゼーションの影響を探る。また,分布の右裾だけではなく,左裾(低所得者の分布)と中間層の分布も分析対象として研究をおこなっている。手法としては,数理的な理論モデルを新たに構築し,データに基づくカリブレーションや数値計算を使い,これらを駆使し新たな知見を創出しようとするのが主な目的である。特に,パレート分布の生成メカニズム,国際貿易と経済発展の関係を考察する。 このような目的を念頭に,今年度では次のような研究をおこなった。パレート分布を発生させる理論モデルには様々なものがあるが,その中で重要な位置を占めるのが幾何的ブラウン運動に基づく理論である。しかし,幾何的ブラウン運動は数学的な仮定であり,既存研究では単に機械的なツールとして使われている。即ち,経済学的な解釈はできるが,その裏にある経済学的なメカニズムに欠けているのである。この点を補うための理論モデルを構築したのが今年度の研究の大きな成果となる。具体的には,Klette and Kortum (2004)のモデルを次のように拡張した。既存企業は複数のR&Dプロジェクトを持ち研究開発活動をおこなう。成功すれば,独占して生産できる財の種類が増えるが,一方で,ライバル企業(既存・参入企業)が成功すると財の数は減少することになる。ここでR&Dプロジェクトの数が十分に大きい場合,企業の財の数は幾何的ブラウン運動に従うことを示すことができるのである。 このモデルは,以前に構築したモデルよりも扱いやすく国際貿易にも拡張し易いものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年前にダブル・パレート分布を発生させた理論モデルを構築し,それを国際貿易に応用することを考えていた。しかし,既存のシュンペーター的モデルと同様に,ライバル企業のただ1回のイノベーションにより企業は市場から退出する特徴を持っており,現実的ではない。実際経済では,殆どの企業はいずれ市場から退出するが,上場企業のような大きな企業がいきなり市場から退出することは稀であり,徐々に市場シェアを失い退出することになる。。この点を克服する必要があったため,新たなモデルの構築をおこなった。その結果が上で言及したモデルであり,幾何的ブラウン運動が内生的に発生する経済的メカニズムに基づく新たなモデルである。
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Strategy for Future Research Activity |
上で説明した幾何的ブラウン運動に基づくモデルは,既存のシュンペーター的モデルの拡張版と言って良い。即ち,広く知られている理論モデル・フレームワークの中で幾何的ブラウン運動が内生的に発生するため,拡張し易い特徴を持っている。この利点を生かして,国際貿易モデルへと拡張する予定である。もちろん,モデルの微調整は必要になるが,輸送費用の減少や関税の効果などを検討することが可能と思われる。更には,連続体として存在する世界経済モデルに組み込むことが可能かどうかも調べる予定である。またダブル・パレート分布に基づく論文は投稿中であり,今年度中のアクセプトを目標に研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により,出張費の支出が少なかった影響が大きい。出張の制限が緩和された場合は,旅費に使う予定である。
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Remarks |
このサイトは春山が幹事として本研究プロジェクトに関連する研究会・ワークショップを開いている研究会を紹介するサイトである。
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